激化
「あっ触れる」
あーだこーだと口論を繰り返したが、彩乃が試しに触れたことで問題解決。
どうやら、俺たちに触れていれば移動出来るようであるこれならば近づくことは可能になる。
問題は多いけど、歪な道は見え始めた。
「走るのと飛ぶの、どっちが楽だ?」
「私は飛ぶ方が楽……かな? 火が多いし」
更地になっている今であれば空の方が安全か。地面は幻炎と炎が折り重なっているために走ることに失敗すれば火傷を負いかねない。
それに……
『顔に近い方が……嬉しいです』
と悪三さんも言い出すので移動は空になる。問題があるとすれば、俺が飛行手段を持ち合わせていないことにある。
「どうするか?」
「えっ? 先輩は私と一緒に行くんですよ?」
何を言っているのかさっぱり分からない。
俺は空を飛べない。彩乃は空を歩ける。それが現実である。
なのに、彩乃は当然のことのように口にして首を傾げている。
どうやって行くつもりなのだろうか?
「先輩。手を握ってください」
「こうか?」
よく分からないが握手してみる。
振り払われた。
少し考えて指を絡ませての恋人繋ぎしてみると振り払われることは無かったが下を向いてしまった。
おいおい。大丈夫か?
「行きます」
「うわっ!!」
体が、宙に浮く。彩乃が足を踏み出す度にどんどん空へと向かっていく。ふわふわと浮いているような状態なのだが、足がどこにも触れなくてめちゃくちゃ怖い。
踏みしめて歩く彩乃はいいけど、俺は完全にアブダクションされている。自分で行動を選択出来ない無重力空間に居るようである。握手みたいな握りをしていたら離していた自信があるほど。恋人繋ぎで本当に良かった。
これが分かっていたから振りほどいたんだな。
「ちゃんと飛べるって分かりましたか?」
「めちゃくちゃ怖いけどな! 七機のやった絶叫マシン顔負けの空中機動と別ベクトルで怖い」
「慣れれば楽しいですよ?」
「地面踏めない感触に慣れる気しないんだが……」
自分の意思でやっている彩乃とは違い、連れられているだけなのだ。不安しか心にはない。
しかし、飛べることだけは理解出来たのでまずは地面に戻り、悪三さんの手を掴んで浮かび上がる。
掴むのは彩乃だ。こっちの方が安定するらしい。移動してから離したらどうなるのかを実験してみると、その場に留まることも分かったので、空の散歩を始める。
確実に、だが急いで炎の巨人へと向かう。
(待たせたな)
(にゃはは。もっと早く来て欲しかったな)
思考で軽口を叩き合う。
実際、七機がそう言うのも分かる。すでに両手の指で数える程しか建物が残っていない。離れているから移動に時間がかかり、倒すペースが遅れているだけで危うい現状は続いている。
「頼むぞ」
悪三さんは頷き、繋いでいない手を胸の前に持ってきて祈り始める。
何かを呟いているようにも見えるが、言葉までは耳に届かない。
効果は覿面だった。
炎の巨人が悶え苦しみ、だんだんとその姿を縮めていく。
(行けそうか?)
(えっと……あはは)
近くにいる七機の反応は意外にも悪く見えた。
小さくなった事で進行速度が遅くなり、五機の土人形で覆うことが出来るはずなのに、だ。
「彩乃。五機はどんな様子だ?」
「えっと、膨れてる。かな?」
「なんでだ?」
「さあ?」
状況を一変するべき鍵を出したにも関わらず、二人共不服そうだ。
未だ悶える炎の巨人に対してアクションを起こせばその理由も分かるのだろうか?
「土人形をやってみてくれ」
「はい」
物は試しにと、土人形を投入してみる。それで、理由は判明した。
判明した瞬間。顔を覆いたくなった。
「なんで火力が上がるんだよ」
「近づけない……ね」
もはや笑いしか出てこない。先ほどまでは触れたら溶ける。だったが、今は近づけば溶けるに段階が上がっていた。
これでは歩いているだけで災害を引き起こせる。逆効果でしかない。
「どういうことだよ!!」
『えっ。あの……えっ?』
一番動揺していたのは悪三さんだった。
幾度とお祈りをしているが、その度に炎の巨人は悶え、その身を縮めては火力を上げる。
少し離れているはずなのに、熱波を感じるほどになっていた。
ここにきてようやく思い至ったのが、能力制御が出来ていないのでは無いかと言う推論だ。
そもそも、悪三さんは少し話を聞かないところがあるように思える。そして、話半分で解釈して突っ走る傾向がありそうだ。
つまり……使い方は知っていても制御は出来ない。アクセル踏みっぱなしの暴走状態なのではと考えがまとまる。
「先輩。これは……」
「ああ。不味いな」
段階が一つ上がった。悪い方向へと……
俺たちは、この場所を……ミライを救うことが出来るのか?
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