『お願いします。お父さんを助けてください!』


土下座せんばかりに頭を下げてくる透けた女性に対してポカンと口を開けて固まる。


「ねっねぇ、もしかして……お父さんって」


俺もそう思い、ビルに対してベアハッグしている炎の巨人に視線を向ける。


『はい。あれが……お父さんです』


やっぱりそうなのか……

あれを救うのは無茶がある気がするけれど、戦闘中であり、助ける可能性を持っている唯一に回線を繋いだ。


(あー七機、状況伝わってるか?)

(うん。伝わってるよ。伝わってるけど……困ったね)

(それは、確かにな)


助ける。それはつまりあの無敵にも思える炎の巨人を殺さずに倒すということになる。

ぶっちゃけ……無理だ。

まず、二人の行動が足止めにもなっていないことからも分かるが、完全に建物だけを狙っている。歯牙にもかけない状態でこちらからの攻撃は全部無効。耐性があるとかではなく。炎による防御を貫通する技がない。


水を操る力があればまた違うのだろうが、七機は金属。五機は土だけのようだし、話にならない。土で火は消えるけど、それだけの土人形を用意出来ない今は押し切ることは難しい。


「打つ手がないから、助けるのは無理だ。むしろ、今の状況をどうにかすることすらままならない」

「戦い方を教えてくれるなら、話は変わるけど?」

『教えます! 教えますからお願いします!』


必死さが伝わる。

状況を、変えられるかもしれないならばやる価値はある。問題は、これが罠である可能性がゼロでないことにあった。


お父さんを助けたい。そう願うのは本心からなのだろうが、敵である事実は消えはしない。すなわち、俺たちの敗北を目指した上で父親を助ける方法を使うかもしれないのだ。


彩乃を手招きし、相談タイム。


「どう思う?」

「私は……手を貸してもいいと思う。必死そうだし、今のままじゃ、ミライちゃん死んじゃうし」

「なるほど」


リスクに対するリターンを考えたらと言う話か。一応七機に連絡を送るが、(お兄ちゃんの判断に任せる)とだけ返ってきた。向こうは向こうで手が離せないようだ。

虎穴に入らずんば虎子を得ずと言うし、やるしかないな。


「分かった。教えてくれるか?」

『ありがとうございます!!』


パァーっと明るい笑顔を浮かべる見た目幽霊の女性。お化けが怖いからと、お化け屋敷に入れない人なら即座に逃げている事だろう。

笑顔で地獄に連れていきそうな雰囲気があった。怖くは無いのだが、不安ではある。


『私は、悪三。悪の三と書いて悪三と呼びます』

「明らかに敵っぽい名前にビックリだ」

『話の腰を折るのやめてもらいますか?』

「はい。すいません」


笑顔のままなのに、物凄い殺気を感じた。感じてしまった。なので即座に謝罪して先へ促す。悪三さん自身は、そのことを望んでいない気がしたのもある。


『私は、今の彼女たちになるつもりでした』

「コッペリアンを知っていたのか?」

『コッペ……? それは知りませんが、人形についての知識はありました。そして、お父さんが観測者なり得ることも……』

「何を望んだの?」

『お母さんです。亡くなった母の記憶。私はそれを望み、お父さんの元で人形なるために……この命を捧げました。ですが……』

「失敗した、か」


コクリと、頷く。

状況は理解したけど、可能なのかがサッパリだ。七機が多くの記憶を保有していることは知っているし、それを返す手伝いをしているから、不可能では無いのだと思う。だが、五機を思えば……首を傾げるしなない。


五機は、彩乃の従兄弟以外には記憶が無さそうなのだ。ちゃんと話していないから知らないだけかもしれないが、神隠しに会い……そのまま彩乃の元に召喚された気もする。だとしたら、色々な式が成り立たなくなる。


個別で違うのか、それとも選定による差なのか……考えれば考えるほど頭がぐにゃぐにゃしてくる。


「成り立ちは分かりました。それよりも……」

『はい。お父さんですね』


見上げる炎の巨人。

建物の数はそう多くないために、見通しが良くなってきている。早く対処しなければ手遅れになる。今でさえ、どうなるのか分からないレベルなのだ。


『お父さんの核を貫く。これしかありません』

「いや、それが出来ないから困ってるんだろ?」

『えっ?』

「えっ?」


俺たちに示されたのは滅する方法。だけど、問題点はそれをしたらお父さんすら殺しかねないということだ。

それ以上に……


「あの炎をどうにかしないと無理だろ。一瞬にも満たない時間で七機の武器を溶かす訳分からん炎だぞ」

『それは……水が居れば』

「居ないから困ってんだよなぁ」

『あっ大丈夫です! 私が火勢を削ります。近づけば可能です!』


まるで今思いついたかのような言い方に一抹の不安を抱く。信じても大丈夫なのか彩乃と視線を合わせながら相談するが、答えは出てこない。


悪三さんに対する評価が一気に下がっていた。本人は名案であるかのようにキャッキャッとはしゃいでいるが、それを見ているだけで心に重いものが蓄積されていく。


案自体は別にいい。成功するのか分からないけれど、やれないことは無いのだろう。炎の勢いが弱まり、土を一瞬で消し去る威力が無くなれば五機の土人形で物量押しも出来よう。そうして勢いさえ削ってしまえば七機がトドメを刺すはずだ。


問題があるとすれば……


「なぁ、さっきから一歩も動かないけど……あれに近づけるのか?」

『…………………えっ?』

「そう、だよね。さっきから上に行って元の場所を繰り返してる……よね」

『アハハ。どうしましょう』


笑って誤魔化すつもり満々の悪三さんに揃って顔を覆う。計画性がまるで無い。これは辛い。こんな人だから我が身をなげうつことに躊躇いはなかったのだろうが……どうすんだよ。これ……もう泣くしかないのかな?




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