裏5 悪三
「じゃあ、燃やすから手伝ってくれないかい?」
にこやかな笑みを浮かべながら物騒なことを口にするお父さんを見つめながら、悲しくて涙が出そうになる。
この体では涙を流すことは出来ず、お父さんの願いを叶えることしか出来ない。
私はただの
それが分かっているのに、ここに居たいと願ってしまう。それが悪だと知っていても、世界を壊すための呪いだとしても、お父さんを一人にするわけにはいかなかった。
すでに多くの絶望を味わい、地獄のような生活を続けていたのだ。それを、近くで見ることしか出来ない日々は終わりを告げた。
なのに、私の体は長く持ってはくれない。呪いであるが故にリミットがあった。それを説明しても分かってくれないお父さんにホッとしていたけれど、遂に行動を起こし、これから更に多くの命を奪おうとしている。
それだけはしてはいけない。
その叫びは、もはや届くことは無い。届かないから口にしない。願いを叶えるために、
「
炎を渡す。
炎が鎧のようにお父さんにまとわりつき、幻の炎が辺り一帯に広がる。
最初は、近くの高層ビルだけだった。
それなのに、お父さんはもっと、もっとと広げていく。一つの街を覆えるくらいに広まった幻炎を見て、私は崩れ落ちた。
特別な結界が生まれ、人々が居る場所からズレた。それは良かったが、ここまでの範囲が火の海になれば大変なことになる。
幻炎が広がったことで得られたメリットは、人的被害の軽減。だが、それはお父さんが暴れても絶望が集まることは無いということ。結界が壊れ、現実に侵食することで多くの命が奪われ、絶望が集まる。お父さんの願いは、そこまでいかないと叶わない。叶えられない。
「お父……さん?」
振り向いた先には、炎を纏ったお父さんの姿。それも、超巨大化していた。
願いを叶えるために、私の力が暴走したのだ。巨人と化したお父さんは、近くのビルを溶かしていく。ドロドロに溶けていくビル。そこに人は居ない。今は、居ない。
でも、現実と同期した瞬間……悲鳴を上げる暇も無く消されてしまう。
「止め、ないと……」
口に出しながら、それが不可能であることを悟っていた。私の声が、届かないことを理解していた。
私は、
「止め、ないと……」
お父さんがやっていることは、目的として正しいのだ。だけど、あの優しいお父さんにそんなことをして欲しくない。私は、私は、私は……
「誰か、助けて……」
泣けない。
涙なんて出てこない。それでも、顔覆って蹲る。
これは私の罪。だから、誰かに裁いてもらわなければならない。
でも、誰に?
あんな姿になったお父さんを誰が止められるのだろえか?
タイムリミットは、ここら一帯の建物が溶けきるまで、三桁単位はある建物だが、お父さんの力ならばそう時間はかからない。
ドプンと、誰かが結界を通り抜ける感覚があった。
ハッとした。私たちを倒す人形が居るのだと。世界を救う人達が居るのだと。直感で感じ取った。
「まだ、止められる」
希望の光が見えた気がした。
私が本当に欲しいものが手に入るかもしれない。
「行こう……」
やれることをする。恥も外聞も投げ捨てて、私は前に進む。
お父さんとお母さんが無くした愛を届けるのだ!
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