合流

「とーちゃくっと」

「地面。地面だ。周り燃えてるけど地面がある。ありがたい。まじで、スゴい。スゴいぞ。地面」

「おにーちゃーん。大丈夫?」

「大丈夫なわけあるか!!」


十分程度の時間だと思うが、その間ずっと上下左右あらゆる方向に振られ、無重力に近い状態を味わうだけでなく。障害物にぶつかる寸前の映像を永遠と見せられたのだ。

トラウマになりそうな時間だった。ジェットコースターなんて目じゃないほどの恐怖。なのに、なんでこんなにピンピンしてるんだよ。吐かなかったのが奇跡だったくらいだぞ!!


「もう。このくらいで根を上げてたらこの先やっていけないよ?」

「知り合いの命でもかかって無ければやりたくねぇよ!!」


ここがミライの住んでいる場所でなかったならば二度寝を決め込んでいたかもしれない。さすがに自分たちのところが襲われたら立ち上がったろうけど……


しかし、状況は最悪だ。この幻炎を通り超えるのに四十階はあるのではと思う高層ビルの屋上を使ったほどだ。かなりの高さがあり、外側は幻であっても触れれば熱さを感じるそうだ。中に入った今は熱をまるで感じない。

それが、不思議であった。近くでチリチリと燃える火種に手をかざしても熱を受け取らない。


「不思議な空間だな」

「うん。多分だけど、ここ自体がガルムの居た空間と同じなんだよ。だから、中と外で対応が変わってるんだ」

「そうか……それで、彩乃たちは来れるのか?」


中で合流するようだが、どうやって入ってくるのか見当もつかない。五機の能力なのか、彩乃が受け取った力なのか……何も聞いてないからな。

七機を見れば、にゃははと笑いながら空を指差すだけである。


何ためかと思いつつも顔を上げれば、


「上を見ないで!!」


空から声が降ってきた。

ヒラヒラと揺れる布と一緒に、その先には多くの肌色があり……


「ちょっ!?」


慌てて視線を逸らした。

フワリと着地をする彩乃。周囲の色とは違う赤さで頬を染めながら髪をイジイジしながら近づいてくる。


「見ました?」

「少し……」

「そう、ですか」


何故か会話がよそよそしい。今までにないハプニングに思考がついていけていない。まさか空から降ってくるなんて想像もしていなかった。

しかし、それを予測していたであろう七機はニコニコとしながら五機に抱きついている。


ガリガリと頭をかきながらどう修正するべきかを考える。


目の前に居る彩乃は明らかな寝巻きである。ふんわりとしたワンピースタイプの服なんて見た覚えがない。基本がパンツスタイルだからだろう。

七機から連絡を受けてそのまま飛んできた(文字通り)に違いない。


「彩乃が手にした力、なのか?」

「はい。右足で、空を飛べます。と言うより、歩けます」

「なるほどな」

「先輩のは?」

「俺のは右目で、少し先の未来が見える。それを、七機に送ることも出来る」


互いの能力情報を交換し合う。

まさか、こんな状況でやるとは想定もしていなかった。彩乃の羨ましそうな視線を受けながら、右目を押さえた。

これが、役に立つことがあるのだろうか?


心配で堪らない。この炎では、俺たちは足手まといにしかならない可能性が高い。今は熱を感じなくても、時間が経てば牙を剥こう。


短期決戦しか、道はない。


「さて、二人の情報共有が終わったことだし、作戦を発表するね。問題がある時は、その都度教えてよ」


ぴょんと、七機が俺たちの間に割り込んだ。どうやら、落ち着くのを待ってくれていたようだ。


「まず、今回の敵だけど……見て分かる通り火の使い手。それも、これだけ大きな被害を出せる力を有している。油断は出来ないよ」

「この炎、本当に大丈夫なのか?」

「もちろん。能力の予測は立ってるからね。公園で見た炎とメールで送られてきた火事現場の情報。後は、僕の中にあるデータベース。これだけあれば、推理は難しくないんだよ」


説明モードに入ったようで、くるりと一回転。さっきまで身につけていなかった眼鏡を装備して、ポーズを決める。


「能力は二つ。一つは、相手の存在を消すまで焼き尽くす火炎。この炎で呑まれたら、焼ける苦痛を長く味わって事切れたら灰まで焼き尽くす。これに当たったら、斬り落とす以外の選択肢が無いかな」


怖い能力だ。

確かに悶え苦しんでいた。だが、それを見ているのは観測者だけだった。つまり、もう一つの能力とは……


「お兄ちゃんの想像通り、全てを隠す火炎だね。この炎は、観測者にしか見えない。燃え尽きるまで隠すことも出来ると思う。でも、火事は起こった。灰まで燃やす炎と全てを隠す炎があるのにバレている。その理由は、燃え尽くす火炎は極わずかな範囲でしか即座に作用しないからなんだよ」

「つまり、広げたら観測者が教えて回らない限りは燃えていることには気づかない。周りも燃えないってことか?」

「うん。昨日の火事は、観測者の誰かが気づいて消防に連絡したことで公になったんだ。あの範囲だから、その程度で広まったのかもしれない。で、今は都市の大多数を覆っている」

「広げすぎているから、火の回りが遅い?」

「そういうこと!」


五機は何も言わないが、こくこくと頭振っている。コッペリアンの二人には共通認識のようだ。


ここに来る前も手遅れではない。そう言われた理由は隠す炎だからか。

何だか、熱く感じるのは気のせいってことか?


「なぁ、ちょっと熱くないか?」

「多分。本当に火をつけたんだろうね。実際の火事なら、能力関係無いもの」

「それやばいだろ!!」

「だから、五機が必要なんだよ。お願いね」

「任せて」


親指を立てると、地面に手のひらをつけた。


「起きて……」小さな、本当に小さな呟きと共に、地面が人の形で起き上がる。

それは、土で出来た人形。不格好なそれは五機が腕を振るうと走り出す。


「さて、説明は後だね。まずは敵と挨拶だ」

「作戦とかは無いのかよ?」

「無いよ? 全力で倒す。それだけ」

「いやいやいやいやいやいや」


行き当たりばったりでは厳しいと伝えるも、首を傾げるばかりだ。

そもそもが行き当たりばったりで生き残ってきたのが七機なのだから、仕方がないと言えば仕方がないのかもしれないが……


「じゃあ、作戦が決まったら教えてよ。僕は僕で頑張るからさ」


にぱっと笑顔を浮かべ、先へと向かっていく。その後を追いかけながら、ああもうと思考を巡らせた。


だが、今ここで作戦を立てないことを後悔するなど、今の俺は知る由もない……





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