炎上
「お兄ちゃん!! 起きて!!」
「うわっ!!」
耳元での唐突な怒声により睡眠状態から強制的に目を覚まさせられた。真っ暗な部屋が俺を出迎え、キョロキョロと辺りを眺めてから携帯を手に時間を確認する。
AM 5:00
そう表示された携帯に思考が硬直し、今日早出であったかどうかを確認する為にアルバムに保存してある写真を探す。
「はぁ……違うじゃん」
ホッと一息。
これなら寝直しても大丈夫だと布団に潜り込もうとして、「早く。こっち!」と七機に連れ出される。
欠伸を噛み殺しながら腕を引っ張られ、連れてこられたのは屋上だった。七機が指差す先、真っ赤に染まる空に唖然としてしまう。
「なんだよ、あれ……」
「敵が動き出したんだよ。今なら、まだあそこの人たちを救えるんだ」
「だけど……」
遠く離れていても分かるほどの火勢。あの辺りに住む人が火の海に呑まれていることは明白で、もはや手遅れとしか言いようがない。
こんな朝早くだ。寝ている人も多く。被害は尋常ではないだろう。
「あれは、本当の火じゃないんだよ!!」
「どういうことだ?」
「あれを認識出来るのは観測者だけなんだよ。まだ、現実に侵食していない。だから、今ならやっている人を倒せば救えるんだ!」
にわかには信じ難い。
だけど、嘘でないことだけは分かる。
「倒せるのか?」
「お兄ちゃんに、その気があるのなら」
そんなのは決まっている。火勢の方向は、ミライが住んでいる場所と合致する。このまま放っておけばミライが居なくなる。
それは嫌だ。
大切な仲間を失うくらいなら……それよりも先に誰かを倒す。殺すことも辞さない。
「なら行こう。あれを現実にしちゃいけないからな」
「やっぱり。お兄ちゃんはお兄ちゃんだ。大切認定されてるミライさんが羨ましいや」
拗ねたように後ろを向いて数歩行く七機の頭を撫で、
「何言ってんだよ。お前も大切に決まってるだろ。七機を中心に世界は大きく変わった」笑う。
反応は無いが、頭から手を離すと先に部屋へと戻る。寝間着のまま飛び出すわけにはいかない。
それと……
「彩乃にも、連絡入れるべきか?」
「当然だよ。五機が居ないのはキツいもん。僕一人じゃあの火をどうにか出来ない。だから……」
「了解」
着替えながら携帯を鳴らす。
三回ほど着信すると、眠そうな声で電話に出た。説明は七機に任せ、まずは外を目指す。
急な階段なので電話しながら降りたら足を踏み外しかねない。七機ならその心配は無いので全部任せた。
「メールも来てたよ。情報だけ見たけどいいかな?」
「一樹のか?」
「うん。近くに居たみたいでビル火災の様子を事細かに書いてくれてた。お陰で、能力が見えたよ」
朝が早いために人気の無い道を全力で駆ける。だが、走ったところで間に合う気がまるでしない。電車は走っているが、それに乗っても……どうするか。
「お兄ちゃん。僕の背に掴まって。そして、片眼鏡を!」
「よく分からんが、了解だ」
背が低い七機に背負えるとは思えないが、とりあえず背に腕を回してガッツリ首に腕を絡ませる。このまま首が締められるのではと思える感じで。
そして、右目に片眼鏡を久しぶりに召喚。秒数が三に増えているので三秒先が見えるようだ。知らないうちにレベルが上がったのだろう。
「行っくよ」
お腹を金属のベルトでガッチリと固定された。嫌な予感がヒシヒシと脳裏過ぎる。両手にワイヤーのような金属を造る七機。その材料は、俺の部屋に散乱していた紙ゴミだ。よくよく見れば、いつの間に用意したのか分からないバッグに紙がギッシリと詰められている。
タイムと叫ぼうとするが、それよりも先に「まずは、そこ」とワイヤーが自動で動き、ビルの壁に突き刺さる。それが、自動的に収縮して体が空中に浮かぶ。
「うっ」
「あっち!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
映画に出る蜘蛛男のように空中を自由自在に飛び回る。三秒先が見えているからか、壁に激突する前に次に飛ぶが、視界内では目前まで壁が迫ってくるので恐怖がヤバい。目を閉じたい衝動に駆られるけれど、閉じたら能力が解除されるので閉じるわけにもいかず、擬似ジェットコースターのような状況を繰り返しながら空の旅を続けることになった。
途中で七機が能力がどうとか、彩乃を交えた作戦とか口にしているようであったが、耳に全く入ってこない。
内蔵がシェイクされ、吐き気を堪えるのでいっぱいいっぱいだった。
死ぬ。死ぬと涙を流しながら目的地を目指す。
幻想火災の中心地は、すぐそこだ。
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