ミライ

スーパーを出て五分ほど歩いた木造アパート。築五十年は当に超えているであろうオンボロアパートにミライは住んでいる。


あちこちガタガタで、今にも壊れそうな階段を上がり二階へ。いくつもの扉を無視して奥の部屋に繋がる扉をノックも無しに開ける。


「お兄ちゃん!?」

「なんだよ?」

「せめてノックくらいしようよ。着替え中ならどうするの!」

「……着替え?」


あいつが、着替え中なんて想像も出来ない。

そもそも、生活出来ていること事態が不思議な奴なのだ。バイトで生計を立てているようだが、そのバイトもよくクビにならないものである。


「もう少しオブラートに包んだら?」

「包むべき中身が無いから仕方ないだろ」


一応女の子の部屋なのだが、俺に遠慮の二文字はない。勝手に冷蔵庫を開けて中に物を突っ込んでいく。

相も変わらず何も無い。何を食べて生きてるのやら。


まっコンビニ弁当とカップ麺か。調理器具を使った様子はなし。流しの中にはゴミがわんさか。掃除から始めないとどうしようも無いな。


「ミライ。来たぞ。彩乃は来てるか?」

「もう少しかかるって。どっかその辺適当に座って」

「座る場所ねぇし」


机に齧り付いているのは、ボサボサの髪を整えないTシャツ一枚の女性。

パンツくらいは履いているようだけどブラはしてない。かなり大きく。メロンサイズが自由に動いている。腰まで届く長髪も、整えればかなり綺麗なのだろうが、手入れはゼロ。あちこち跳ねまくっている。


部屋はもっと酷い。嵐でも通ったのかと疑うほどに紙が散乱し、本やゴミ。脱いだ服で足の踏み場もない。


「あーあ。デジタルなのに、なんでインク瓶転がってんだよ。中身ぶちまけてるし」

「仕方ない。事故事故」


頓着していない様子だが、畳にまで真っ黒が広がっていて固まっている。これは落ちないだろうとため息しか出ない。


「分かったか。こういうやつなんだ」

「にゃはは。そっか〜」

「えっ誰か居るの!?」


七機と視線が合う。

しかし、その瞳には七機の姿が写っていないようですぐに明後日の方へと目が動いていく。


「先生。一人?」

「彩乃が来てないなら、俺一人だな」

「そう。そっか……」


危ない危ない。

普通に話していたが、七機は観測者以外には見えないのだ。

多分声も聞こえていなかったから、俺の呟きに反応して誰かが居ると判断してのだろう。

慣れって怖いわ。


(先生って?)

(原作書いてるから、そう呼ばれてるだけだ)

(ふーん)

(とりあえず、片付ける。手伝えるか?)

(分かった。何すればいいの?)

(ここら辺の全部ゴミだから集めるの手伝ってくれ)


本当はキッチンとここと手分けして片付けした方が早いのだが、勝手に片付いていくのを見たら驚くだろうから一緒にやるしかない。まずは座る場所の確保である。

紙や本を一箇所に集め、脱ぎっぱなしの服を回収していく。下着も平然と放置してあるので大丈夫なのか不安になったりもする。


「服くらいは自分で洗えよな」

「そんな時間ないの!!」

「下着見られて恥ずかしくないのかよ」

「あたしとしては全部見られても気にしない。見られて恥ずかしいところないし」

「気にしろよ」


羞恥心仕事をしてくれ。それとも、俺のことを男として見てないのか?


「この人。大丈夫なの? 襲われない?」

(分からん)


無防備過ぎて相手にされないのであればいいが、無防備であるが故に食われたら元も子もない。

知り合いが狼に食われまくる姿なんて見たくはない。

だから、防犯くらいはちゃんとして欲しい。見た目だけならかなりの美女なのだから……


「あーもう!! 書けない!!」

「気持ちは分かるが騒ぐな騒ぐな」

「先生。片付けたら書けません!!」

「どんな理屈だ!」


部屋が汚くないと書けないとかアシスタントすら雇えないだろうが。そもそも、アシスタント雇えるようなレベルではない。商業作家はまだまだ遠い。


「もう、ダメです〜」

「情緒不安定過ぎるわ」


椅子から溶けるように落ちて乾いたインクの上にダイブ。ゆるゆるの首元から肌色が思いっきり見えている。防御力が低すぎて困る。


「一年で慣れるもんだよな」

「なーにがですか?」

「ミライを見てて情欲が湧かん」

「えーこの胸でトキメキません?」

「揺らすな揺らすな」


七機は隣で自分の胸元見ながら悲しそうな表情するのは止めろ。成長はしないだろうけど、お前にはそれくらいでちょうどいいから。


「むぅいつまで経っても襲ってこない理由はそれですか……」

「なんで襲わないといけないんだよ。襲われたいのか?」

「先生なら問題なく。それで子どもを宿したら責任取ってもらうだけですし」

「ぜってぇやらねぇ!!」


ミライを養うとか絶対に無理だ。生活能力皆無だから家事を全部やって生活費を稼がないといけないなんて地獄である。せめてどちらかを手伝ってくれるならば話は違うが、手伝う気がないことをよく知っている。

本当に生きていることが不思議なレベルなのだ。


「洗濯物どうしよっか?」

「彩乃が来たら洗うからどっかそこら辺置いててくれ」

「何を?」

「洗濯……ああ。ミライには関係ない話だ」

「酷くない!? やっぱり誰か居るよね!?」

「居ない居ない」


適当に対応しつつ、部屋を見回す。

大分片付いたし、キッチン片付けるか。

早く彩乃が来ないものか……

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