捜し者
「俺は、一体どこに連れて行かされるんだ?」
五機と契約を果たした彩乃と別れ、電車に揺られること数十分。いつもは降りない駅で降ろされふらふらと彷徨う。
マンションが多く。どうやらベッドタウンのようであるが、用事でもなければ来ることがない場所である。電車から眺めることはあっても足を運ぶことはゼロ。
住んでいる。住む可能性があるのであれば違うけど、そんな予定は微塵もない。
ミライの家も似たような場所にはあるが、あっちは県を跨ぐからな。家賃が安い場所で必死にしがみついている。今度差し入れ持っていかないと餓死するのではなかろうか……
「彩乃にも着いてきて貰えばよかったよ」
ため息が零れる。
積もる話もあるだろうからと、彩乃たちを帰したまでは良かったのだが、暇になったなら付き合ってと七機に連れられてここまでやって来た。
何をするのかは分からないのが不安要素である。変なことをさせられなければいいのだが、
「僕の用事は、僕一人では成し遂げられないからね。協力してよ」
「それで、俺は何をすればいいんだ?」
「何もしなくていいよ?」
小首を傾げる。
本気で何のためにこんなところまで足を運ばされたんだと思う。
仲間集めではないだろう。そうであるならば、七機が真剣な表情で歩いている意味が分からない。敵を探しているのならばまだ分かるけど、情報も無しに降りる駅を決めた理由が不明になる。
それに、僕の用事と言っていた。つまり、コッペリアンとしての使命以外なのだろう。
「ここには、お姉ちゃんに会いに来たんだ」
「お姉ちゃん?」
「僕の中には、たくさんの傷ついた魂がある。その中に眠る一人のお姉ちゃんがこの街に住んでいるんだよ」
「会えるのか?」
「お兄ちゃんが居るならね」
そうか……
奈々のような子がたくさん居るということなのか。
その願いを遂げるための行動ならば付き合わないわけにはいかない。
満たされずとも救われる想いがあるのかもしれないのならば……うん。力になりたい。
それが、七機と契約した俺の役目であろう。
「んじゃ。さっさと見つけようぜ」
「にゃはは。急にやる気だね。まぁ僕としても、その方が助かるけどね」
ウィンクしながら笑顔を浮かべるとスキップで人波の中に飛び込んでいく……って、ちょっと待て! 七機はすり抜けるから気にしなくていいだろうが、俺は人波を掻き分けないと前に進めないんだよ!
「置いてくなっての」
ため息を零しながら早足で人波の隙間を縫って行く。
小さな七機を追いかけるのは大変そうだと思ってはいたが、なぜかどこに居るのかが分かってしまう。
これが、繋がりということなのだろう。右へ左へと流れていく気配を追いながら、しばらく歩いていく。
「あいつ、なのか?」
七機が女子高生と歩いているのが目に入る。正確には、斜め後ろを付いて行っているだけだが、何かを狙っているようにも感じられた。
その後ろをゆっくりとついて行く。
見ようによっては、女子高生を狙う怪しい人である。なので、進行方向が同じなだけで、決して後を付けて変なことをしようと考えている訳では無いと頭の中で言い訳を並べる。
警察に捕まらないように途中で店に寄ったりして距離を置く工夫もしておく。どこに居るのかが分かっているから出来る芸当だ。これで迷子になりでもしてら救われない。
(もう少し付き合ってね)
(はいはい)
マンションに入って行く。人が少なくなり、隠れる所もない。だからと言って中に突っ込むわけにもいかないので困ってしまう。
どうするべきか……
(終わったよ。入ってきて)
(そうかよ)
何をどうしたのか分からないが、終わったようだ。
入っていいのであればと、七機を迎えに行けば……
「ごめんね。ごめんね。ごめんね!!」
「大丈夫か……これ」
「にゃはは。大泣きされて困ってたんだよね」
顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくる姿に困惑する。一体何をどうしたらこうなることやら?
「僕の姿は、もう見えてはいないよ。だから、声もかけられなくて」
「俺が声をかけるのも憚られるんだが……」
「まぁまぁ」
少ないけれども人は居る。
視線を集めているようなので、肩を貸して端に移動する。ど真ん中で泣かれても邪魔と思われるだけだろう。
「大丈夫か?」
「は、い。ぐすっ」
「俺が言うべきことじゃないが。悪かったな」
「いえ、ぐすっ。私。嬉しい。です」
「なんでだ?」
ハンカチを貸し、涙を拭わせる。
少し落ち着いたようでもあった。
「あの子が、私のことを思ってくれてる。それが、ちゃんと分かっただけで、充分です」
「……何か、見えたのか?」
「はい。七機ちゃんの中に、あの子の姿が」
「そうか……」
俺には、見えなかった。少なくとも、泣き崩れるほどの何かを、七機から受け取ることはなかった。
愛が少ないからなのかもしれない。あるいは、奈々と七機が重ならないからなのかもしれない。
分からないことだらけだ。コッペリアンという名前はともかく。神の作った人形なんて意味が分からない。
神様がこの世界に干渉して何になるって話だ。
理解不能だし、クソふざけたこともやっていたと知っている。
でも、意味は分からなくとも救われる人は居るのだろう。目の前に居る女子高生はその一人だった。
なら、それでいいのかもしれない。
それだけで、いいのかもしれない。
仲間集めや戦いの事があるけど、それはおまけでいいだろう。
七機の中には、愛された人たちが沢山居るのだ。その全てを救うことが、俺たちの仕事になろう。
「ありがとう、ございます」
「ああ。じゃあな」
ハンカチを回収して背を向ける。もう二度と、会うことはないだろう。
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