五機
光が広がっている。
目を閉じているのに、光を感じられることが不思議だった。下手に動くことはせず、ジッと待つことにする。慌てず、焦らず、叫ばない。どうせ、七機が原因なのだ。終わったら知らせてくることだろう。
「お兄ちゃん。目を開けて」
「いいのか?」
「うん。もう大丈夫だよ」
それならばと、目を開いた。
そこには……
変わらないカラオケボックスの光景しかなかった。
「???」
何か変わった訳でもない。ただ、目が眩まんばかりの光が溢れただけだった。彩乃だって特に変わった様子は……あれ?
「彩乃?」
「あっ。えっと、ごめんね」
彩乃が、涙を流していた。
俺の知る限りだと、泣いている姿なんて見たことは無い。だからこそ驚いてしまったし、目が離せなかった。
普段見ることの無い一面に胸が高鳴ってしまっていた。
「はいはい。全くお兄ちゃんは」
「なんだよ」
「べっつにーそれより、挨拶しなよ」
「……挨拶?」
指差す先は彩乃の膝辺り。
ここからは死角になっている部分である。
パンツスタイルだから気兼ねなく机の下を覗いた。スカートだったら躊躇したけどな。
「んっ?」
「ひぅ」
そこには、小さな男の子が居た。七機よりも小さいのではないかと思うほどで、小学生低学年くらいだろう。
恐らく、コッペリアンなのだろう。服も着ておらず、色々と見えてしまうが故に男の子であることが分かってしまう。
「誰なんだ?」
「
「五機……彩乃の知り合いなのか?」
「うん。十年前に行方不明になった従兄弟なの」
「なるほどな」
さっきの涙はそれが原因か。
十年前に行方不明になった従兄弟が現れたのならそれは嬉しいだろうな。
俺だって、七機ではなく奈々が来てくれたならば号泣していたことだろう。
「お兄ちゃん〜考えてること。丸わかりなんだからね!」
おっと失敗。
「それにしても、そのままなのか?」
「うん。ほら、これを見て」
渡されたのは古い写真である。
古風な家をバックに姉弟のような二人の男女が仲良さげに撮られている。
写真を受け取り、五機と見比べてみれば、全く同じである。
となると、もう一人の女の子は……
「彩乃と五機か?」
「うん。私と
「そう、なのか……」
「仲良かったんだ。私の後ろをトコトコ着いてきて、お姉ちゃん。お姉ちゃんって……」
感極まったのか、ポロポロと涙が零れている。
(七機には、分かるか?)
(なにが?)
(なんで、五機が彩乃のコッペリアンになったのか)
(そんなの分かるわけないじゃん。でも、偶然じゃないと思うよ。きっと、輝希くんは五機になるために行方不明になったんだから)
(どういうことだよ)
聞き捨てならない内容に、語気を強める。
(そのまんまの意味だよ。それに、きっと輝希くんだけじゃないよ。ニュースで調べてみてよ)
指示通りにニュースサイトを検索してみる。
トップページには「山で小学生の白骨死体を発見。死体遺棄事件として調査中」と書いてあった。
看過できない内容だ。
符号する点があり、多くの可能性がある内容だからだ。
小学生の白骨死体。これが、死体遺棄ではなく。行方不明の結果なのだとしたら……
(分かったかな?)
(想定したくない内容ってことだけはよく分かったよ。でも、どういうことなんだよ)
(神隠しって分かるよね?)
(そりゃな。有名だし、小説の題材にされたりするからな。まさか……)
(そのまさかだよ。もちろん行方不明者全員が神隠しって訳じゃない。でも、一部ではあることなんだよ。そして、年に何人かはこの現象に巻き込まれる。帰ってくる子も居れば、帰ってこれない子も居る。輝希くんは、後者で契約者を待ってたんだね)
にわかには信じられない。
もしも、ガルムとの戦闘を経験していなければ、七機と会っていなければ、妄言だと切り捨てていてもおかしくない内容だ。
でも、俺は知ってしまっている。
世界には、感知することの出来ない不可思議があることを……
「彩乃。良かったな」
「うん」
それ以上は何も言えなかった。
喜びに涙する彩乃とそれに寄り添う五機の間に入ることもできない。
せっかくの再開なのだ。心ゆくまで堪能してもらうとしよう。
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