仲間

フラフラとHのつくホテルへと向かおうとする彩乃を必死に引き止めて、なんとかかんとかカラオケボックスへと連れ込んだ。

長く居る予定もないので互いに一杯ずつだけ飲み物を頼んで対面に座る。


歌う気が無いため、広告が流れる筐体を眺めながらどう言うべきかを考える。

互いにソフトドリンクを頼んだ。酒に任せて口にすることが憚られたからだ。そして、七機は外で待機している。説明する前に顔を出しても信用が得られとは思えないからだ。


「あの、先輩」

「ああ。悪い。どう切り出すか迷ってた」

「えっと……」

「おもむろに服のボタンを外すのを止めろ。説明をちゃんとするから」

「まさか、本当にあの子は恋人……」

「違う。つうか、外から恋人連れこんで仕事する訳ないだろう」


頭が痛くなる。

あんなのがバレたら方々からドヤされてしまう。からかわれた方がマシレベルで。


「なら、あの子は何者?」

「何者なんだろうなぁ。少なくとも、生きている人間ではない」

「?」

「見てもらった方が早いな」


疑問符を浮かべるのは仕方がない。反対の立場であれば、同じような態度を取ったのは明白だからだ。


怒ってないだけマシか。俺なら、不機嫌になってた可能性が高いからな。


(入っていいぞ)

(んっ分かった)


トビラをすり抜けて入ってくる七機。インパクトは充分のはずだ。


「やっほー。僕は七機。お兄ちゃんの妹だよ」

「先輩! 今、今!」


俺の視線を追ってトビラを凝視していたために、すり抜ける瞬間を余さず見たのだろう。

これでまともなやつだとは思われまい。

だけど!


「誰が妹だよ。奈々とは違うんだろ?」

「うにゅー痛いよぉ」


頭を掴んでうりうりと左右に揺らしてやれば、目をバッテンにして両手をバタバタさせる。

振りほどこうと思えば簡単に振り解けるのだろう。そうしない理由は、単純に面白がっているからだと思う。言葉とは裏腹に口元に笑みが見える。


「先輩。昨日、何が?」

「詳しくは知らん。だけど、こいつと出会って色々巻き込まれた。結果としてマンガでしか体験出来ないようなことを体験したよ」

「羨ましい!!」

「だよな」


生死の境にいた事実さえ除けば、めちゃくちゃ羨ましい出来事である。

楽しさとか苦しさとかはあるけれど、非現実的な出来事なんて早々ない現代において特別な時間と言うものは貴重だ。

これがゲームみたく、死んでも死なない状況ならば、諸手を挙げて歓迎するんだがな。人生上手くはいかないものだ。


「ねぇねぇ! 私には居ないの!?」

「落ち着け落ち着け。まず話を聞いてからな。七機。昨日の説明をざっくりで頼む」

「了解。細かいのは端折っちゃうね」


そうして、十分ほどかけて昨日俺にしたのと似たような説明をする。コッペリアンや観測者。ガルムに襲われた世界など、一通りである。

質問したそうにうずうずとしていたが、まずは最後まで聞くことを優先してくれたのか大人しく耳を傾け、らんらんに輝く瞳を向けている。


楽しそうにしている彩乃を見ていると、バレたのも悪くないように思えてしまう。これで、同人作業が進めば万々歳だな。


「要するに、先輩は選ばれたと?」

「みたいだな。迷惑な話ではあるけど」

「でも、いいなぁ。妹さんが帰ってきて良かったね!」

「見た目が全然違うけどな」


記憶の中に居る奈々と七機は似ても似つかない。雰囲気もそうだが、行動一つ取っても違うと言える。

ただ、七機を見ていると時折奈々の顔も見えてしまう。あの頃に出来なかったことをやらせてやりたいなと考えてしまうのだ。

違う存在だと分かっていても、心のどこかで同じところを探してしまうのかもしれない。


「にゃはは。仕方ないよ。僕は器だもの。問題は中身で、その中身に混ざっているだから、僕はお兄ちゃんの妹なんだよ!」

「いいないいなー」

「危ない目に会うかもしれないんだぞ?」

「それでも羨ましい!」

「なら、コッペリアンと契約する?」

「出来るの!?」

「マジかよ……」


ビックリ展開に驚きを隠せない。

観測者だから契約出来るって話ではないだろう。


俺と七機が会ったのは偶然である。それと同じことが彩乃にも起きると言うのだろうか?


「えっとね……僕の手を掴んで貰えるかな?」

「すり抜けない?」

「契約出来るなら大丈夫だよ」

「つまり、試金石!」


俄然やる気が出たようで胸元に両手を置いて気合いを入れて七機の手を掴んだ。


光が溢れる。

どこまでも、どこまでも、光が全てを飲み込み、目すら開けられないほどの光が部屋を覆う。

そして……



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