彩乃

仕事が終わり、部屋で一休み。

まだまだ日のある時間帯にあがれたことに感謝しながら大きく息を吐き、


「寝るか」


布団に潜り込もうとする。


「ダメだよお兄ちゃん。やること沢山あるんだからさ!」

「例えば?」

「仲間探しだよ。後、僕のお願いも聞いて欲しいな」


仲間、ねぇ。

直近で思い至るのは彩乃だろう。朝のあれから話してはいないが、明らかに七機が見えていたようだ。有力候補であろう。


ただ、巻き込みたいかと言われたら首を横に振る。


命の危険がなければ喜んで招き入れるのだが、そうでは無いと分かっているのだ。好きな相手を危険と分かってて手招きしたくはない。


「んっ。お願いってなんだ?」


仲間捜索は昨日聞いている。

しかし、七機のお願いに関しては初耳だ。やりたいことがあるのか?


……嫌な予感がする。


「あのね。僕の中にある魂を救って欲しいんだ」

「いや、無理だろ」


何人の魂があるのか分からないが、その全てを救うなんて無理無理。仮に成長ミッションだとしても達成不可能であれば全力で目を逸らす。

高い壁なんて見て見ぬふりしてないと人生の荒波に飲み込まれてしまうわ。


まぁ、そのせいで成長もしないから周りに置いていかれるんだけどな……


「基本は僕がやるよ。それに、見えなくても言いたいことがあるって子がほとんどなんだ。成長を一目見たい。とかもあるけどね」

「なら、何を手伝うんだ?」

「連れて行って欲しいんだ。場所は指定するからさ」


その程度なら問題ないか。

その後に特別な行動をしろってことでないならば大歓迎である。

問題は、移動にお金がかかるってことだろう。お札にさらばと言わねばなるまい。


「ありがとう。お兄ちゃん」

「はいはい。と、メールか」


差出人は彩乃だ。

今すぐに会いたいと書いてある。


なんで会いたいのか分かってしまうからげんなりだ。

これが恋愛的なことなら少し気合いを入れようとも思うが、どうせ七機のことであろう。


着替えて下に急ぐ。すでに外に居るらしいので小走りに行こう。七機を見れば、立体機動で階段を下っている。戦いの練習なのだろうが見ていて心臓に悪い。落ちたところで怪我をするわけじゃないけれど、忍者に近い動きで頭上を飛び回られたらギョッとする。


慣れかけている自分が居るのも事実だけどな。


「いたいた」

「遅いよ!」

「これでも急いできたんだよ。ほら、誰か出てくる前に離れるぞ」

「むぅ」


不機嫌な様子だが、原因の大部分は俺である。甘んじて受けよう。

荷物を差し出してくるので受け取る。これを罰とすることにしたのだろうな。


「それで、朝の子は?」

「あーそれなぁ」


人通りは多いが、構わず話を振ってきた。

他人の会話など気にする様子がない通行人たちはさっさっかさっさっか歩いていく。各々店に入ったり電話したり無駄にデカい声で話したりと自由である。


他人の迷惑なんてガン無視だよなぁ。人のことは言えないけどさ。


「まさか、彼女とか……?」

「なわけないだろ。彼女連れて仕事すっかよ」

「しないとも限らない」


職場が同じであれば彼女を連れて仕事をしているようなものか。そう考えたら、確かにしないとも限らないわな。

明らかな部外者である七機には当てはまらないけど。


(七機。近くに居るか?)

(もちろんだよ。様子見てる。どうするの?)

(どっかの店に入って紹介するよ。めちゃくちゃ嫌だけどな)

(まぁまぁ。観測者なら絶対にコッペリアンが居るわけじゃないんだからさ。気楽にいこうよ)

(はいはい)


七機は楽観視しているけど、俺はそんなことをしない。

彩乃はきっと巻き込まれる。俺がどう行動しようともそれは変わらない。

何せ、そういう性分だ。そのせいで、今が大変だとも言える。


誰か代わりに書いてくれないかなぁ。めちゃくちゃ大変なんだよな。プロでもないのに、なんでこんなことに……


「先輩?」

「カラオケでいいか」

「なんでです?」

「二人っきりになりたいから」

「なっ!!」


余計な人を巻き込みたくないからって理由なのだが、何故か彩乃は顔を真っ赤にしてもじもじと恥ずかしそうにしている。

視線の先にはカラオケではなく大人なホテル。


あれ、目的……分かっているはずだよな?


不安の風が胸中を吹き抜けた。



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