説明 3

「じゃあ、説明の続きいくよ?」

「ああ。頼む」

「コッペリアン。観測者と話してきたから、次はあの世界について話そっかな。僕に深く関わってくるしね」

「そうだな」


正直、あの世界がなんなのか今でもよく分かっていない。夢のような気もするが、夢と段じるにはあまりにもリアルだった。

不安や苦しみがあったし、恐怖があった。

五感もあるように思えたし、 体に疲労も蓄積されているような気もする。

またあの場所に行くと言われたら全力で拒否するだろう。時が進まない凄い場所であろうと、別に修行するつもりが無ければただの拷問で、化け物を相手にしないといけないなんてイジメ以外のなにものでもない。


「あの世界はね〜僕たちコッペリアンを作るための世界なんだよ」

「はい?」

「だから、あの世界は、僕たちを作るために存在する世界なんだ。だから、今後関わることは無いと思うよ」

「そうか。それは、よか……ん?」


コッペリアンを作るための世界。

なら、俺はなんであの世界に巻き込まれたんだ?

完成形であるはずの七機と一緒に行く必要なんて無いはずだ。


「なぁ」

「言いたいことは凄くよく分かるよ。でもね、あの世界にお兄ちゃんが行ったのは必要だったんだよ」

「必要って?」

「調整のためだよ。僕とお兄ちゃんの間に必要なパスを通すのにね。そして、番犬を置くことで実力未満のコッペリアンと観測者を外に出さないようにしているんだ」

「なら、まだガルムは居るのか?」

「番犬って名前が付いているけど、犬固定じゃないんだ。牛だったり、猿だったり、虎だったり、形は様々だよ。今回はそれが犬だっただけ」


そっそうなのか。

まぁ、別に形に拘るつもりは無いからそれはいいんだけど……

他の観測者に合掌だな。頑張ってもらおう。


「それに、あそこだけがコッペリアンを作る世界じゃないから、番犬みたいなのが居ない所もあるんだよね」

「そうなのか」

「うん。そうだよ。僕の場合はあの世界で、地獄みたいなのだったって話だね」


理不尽この上ないな。

とは言え、今生きているのであればそれでいいか。元気そうだし、あの世界について気にはしてないのだろう。

うんうんと頷きながらカタカタとキーボードに指を滑らせていると疑問が浮かんだ。


「なら、仮にあそこで死んでたらどうなってたんだ?」

「えっ? 死ぬよ」

「はっ?」

「死ぬに決まってるよ〜別に、資格さえあれば誰でもいいんだからね。死んだって、コッペリアンの材料になるわけだから無駄にもならない。生き残れば生き残ったで別にいいし。死んだ時は死んだ時って感じなんだと思うよ」


可愛らしく小首を傾げながら残酷なことを平然と口にする。

無事に帰って来られてよかった。背中に冷たい汗がめちゃくちゃ出てる。一歩間違えたら肉体がそのまま死体になっていた事だろう。危ない危ない。


ひとまずあの世界については放置だ。もう行くことが無いのであれば問題もないしな。


「なら、超回復について聞こうか。まだ聞いてないよな?」

「ああ。あれのこと? あれはお兄ちゃんからの愛があったからだよ」

「また愛かよ。それじゃあ、コッペリアンはどこまで耐えられるんだ」

「粉微塵にされてもお兄ちゃんが居るなら復活は可能だよ。時間はかかるけどね」

「不死身かよ」


吸血鬼を想像してしまう。ただ、それだと日光に負けてしまうのでガルムも一緒に想像した。

だとしたら……


「核があるのか?」

「うん。やっぱり分かっちゃう?」

「ガルムと同じだと思えば、自然とそうなる。それで、どこにあるんだ?」


七機の弱点は把握しておくべきだろう。

知らないうちに地雷を踏んでました。なんてことは避けなければ。


「そこだよ」

「はい?」

「だから、そこ」


指差すのは、俺の右目だった。

冷たい汗が頬を伝う。背中はもうびっちょりだ。後でお風呂に入らないと明日がヤバいな。なんて関係ない話題を頭に浮かべながら、はははと乾いた笑みを浮かべる。


「もしかして、あの片眼鏡って…」

「大正解。そうだよ。それこそが、僕の核なんだ」


なら、俺が囮でガルムの前に立ったのってただの自殺行為じゃないか。もしもあれで右目がやられでもしたならば、七機は何も出来ずに消え去っていたことだろう。


「あっ危ねぇ」

「本当だよ。ビックリしちゃったもん」

「言ってくれよ」


そうしたら、あんなことを考えなかったし、もっと自分の安全策を……取っただろうか?

分からんな。もはや過去のことだし。


「まぁまぁ結果オーライだよ。お陰でガルムを倒せた訳だしね」

「そりゃそうだけど……」

「気にしない気にしない。お兄ちゃんは、僕を心配してあの役を引き受けてくれたんだもん。ね」


大きく息を吐いた。

色々と理解はしたが、正直もう容量一杯だ。これ以上は脳が動く気がしない。


「まぁいいや。風呂入って寝る」

「じゃあ、僕も」

「一緒に入る気かよ!?」

「気にしない気にしない。お兄ちゃんが一緒じゃないとちゃんとお風呂入れないんだからさ」


すり抜けを考えたら、そうなるのかもしれない。

危険な香りしかしないが、当人が気にしていない以上腹を括るしかないだろう。

肩を落とし、着替え片手に風呂へと移動する。

夜はまだまだ終わりそうにない。

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