説明 1
「やっと帰ってきた〜」
彩乃と別れてから時間的にはそんなに経っていないはずなのに、かなり長い時間を外で過ごした感覚がある。一番の要因として上げるのであればガルム戦ではあるが、その理由を聞かねばなるまい。
「むぅ」
「どうした?」
「汚い。もっと掃除しようよ」
「そうか?」
ベッド以外だと、ダンボールに入った本の山がそこら辺に転がっている以外はほとんど物がないはずだ。物置と化している冷蔵庫や収納である棚には色々置いてあるけど別にそこまで気にするものではないはずだ。
ベッド周りには色々物が散乱しているが、生活スペースの大部分をそこだけで完結させているので、気にしたことは無い。
「お兄ちゃん。僕が気づかないと思ってるの?」
「ゴミをゴミ袋に入れてそのまま置いてあるところか?」
「そうだよ。もっとちゃんとしようよ!!」
「まだ入るからなぁ」
基本的にゴミは店のゴミ置き場に置いておけば持って行ってくれる為、貯めておく習慣が出来ていた。袋一杯になったら外に出るついでに持っていく感じである。
「もう。そんな所はダメだよね」
「はいはい。それで、説明してくれるんだろ?」
「むー分かったよ。気にはなるけど、今は置いといてあげる。それで、どこに座ればいいの?」
「ベッド」
「はーい」
床に座ることがほとんどないために座布団や座椅子などは用意していない。男の一人暮らしなんて基本的な生活さえ出来れば残りは適当になることは多いはずだ。
俺だけではないだろう。うん。
「んーと。それじゃどこから説明しようか?」
「なら、説明の前に服をどうにかしてくれないか? いい加減目に毒だから」
「にゃはは。僕の体なんて見ても嬉しくないでしょ?」
「女の子の体とか見慣れてねぇよ」
「そうなの?」
「そうだよ。悪いか」
「んー悪くはないけど、疑問かな。僕ぐらいの歳の子だったらよく見てたんじゃないの?」
「人をロリコン扱いするの止めてくれよ!?」
一応これでも好きな人は居るだよ。その相手に変な目で見られたらどうするんだよ!!
「んにゅ。そっか……恋。してるんだね」
「多分な」
確信は持てていない。それでも、これが恋ならばいいな。とは、感じている。
「そっか。なら、どんな服着て欲しいか教えてよ。それを着るからさ」
「なら、えっと……」
近くに散らばる本を眺め、設定本を見つけてペラペラとページを捲り、似合いそうな服を指さした。
「これでどうだ?」
「了解。ちょっと待ってね」
クルクルとその場で回転すれば、まるで魔法少女の変身シーンのように服が現れ、数秒の後に着替えが完了する。
「これでいいかな?」
「おお。似合ってるじゃないか」
「えへへ。良かった。じゃあ説明に入ろうか。 何から聞きたい?」
何から聞きたいと来たか。
それなら……
「なら、まずはコッペリアンと観測者について頼む。大まかにしか聞いてないからな。神が作ったとか。神の力とか」
「ああ。そうだね。とは言っても、基本的にはそれだけなんだよ。僕たちは神が作った座。と言う場所に辿り着いた魂で観測者はその魂を見ることが出来る人を言うんだ。なんか難しいよね?」
「難しいな。ちょっと待てよ」
ノートパソコンを開いて大まかにメモしていく。もしかしたらネタに使えるかもしれないしな。
「僕たちはね。元々はこの世界で生を受けた普通の子だったんだ。でも、様々な要因で亡くなった魂があの世界。ガルムと戦った世界に集められて、もう一度生きるために逃げ回ってたんだ」
「あの世界か……聞きたくはあるが、先に逃げ回ってた理由からにしよう」
「うん。死んだ僕たちは、何も聞かされずにあの世界へと放り投げられたんだ」
「本当に、何も聞かされないのか?」
「そうなんだよ。だから、集められた子の大半は何も出来ずにすり潰される。けどね、死ぬこと許されない。例え、体を失おうとも、苦痛に悶え苦しもうとも、魂だけの存在だからすぐに再生されてしまうんだ」
「地獄かよ」
死ねないのに苦しいとか冒涜にも程がある。体は再生されても、心が持つわけが無い。そんな世界で、まともに過ごせるわけがない。
「地獄だったよ。でも、僕たちは心に抱いた願いがあった。もう一度この世界へ戻り、その願いを叶えるために、苦しみや悲しみに耐え、生き残るための術を身に付けるんだ」
「それが、あの変な戦闘術ってことか?」
「そうだね。無限に出てくる化け物を相手に、必死に過ごした。その中で、心が折れて動けなくなった子は無数に居たんだ。僕は、みんなを回収し、ここに居る。そして、回収していくうちに気づくんだ。どうやって世界を抜け出すのかと僕たちが救われる方法がね」
説明されずとも、あの世界で過ごしていく内に気づいていくってことか。適応能力が高いのではなく。自然と情報が開示されていた可能性もあるな。
だが、何も知らされないで地獄を生き抜く。いや、死に抜くなんて辛すぎる。
相応の理由をそれぞれが持っていたのだろう。
「ありがとうね。お兄ちゃん」
「なんだよ。唐突に」
「お兄ちゃんが居たから、僕は、ううん。僕たちはここに居るんだ。だから、ありがとう」
満面の笑みを咲かせながら、感謝を述べられても困る。
特に何かをした訳では無い。
全て偶然だ。
俺に観測者としての力があったなんて知らなかったし、あそこを歩いていたのは気分でしかない。別の道を選んでいたら、会うことはなかったはずだ。
笑顔が、心苦しい。
「いいんだよ。お兄ちゃん。僕が言いたいだけなんだから」
まるで何かを成し遂げたかのように清々しい表情を浮かべているがその理由を口にすることはなかった。
それが、心に小さなトゲのように突き刺さる。
この説明で、話してくれるのだろうか?
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