実験

「はぁ」


実験が終わり、裏口へと帰ってきてため息吐く。

コンビニや路上で軽い実験をしてみたが、七機の言が正しいという事が証明される結果になってしまった。


「どうしたの?」

「いや、色々とな」

「ふぅん」


まずはコンビニに入り、店員に話しかけてもらったが、反応はなく。手を振ったり大声を出したりしていたが完全に無視されていた。

耳が遠かったり、眠くて仕事をする気が無いのかと考えておやつ片手にレジへと突撃してみれば普通に対応されてしまった。どうやらちゃんと仕事をしているようである。

店員相手以外にも物を持てるのかもしてみた。だが、自ら持とうとして持てたものはなく。自動ドアも反応はなし。むしろ、すり抜けてしまうのでドアや物がある意味が無かった。


この辺りは、幽霊っぽくて目を何度も擦ってしまった。調子に乗った様子でこちらに向かって手を振ったり半分だけ体を出して遊んでいたりしていたのが印象的だ。漫画やアニメならばありふれた光景ではあるけれど、現実として見るとは思わなかった。


ただし、すり抜けない方法もあるようで。

その一つは、俺が渡した時だ。一度俺が持ってから七機に渡せば、持つことは可能であった。ただ、他人からどう見えているのかは分からない。

店員の前で持ってもらっていたが完全無視されたので、もしかしたら見えなくなるのかもしれないが、万引きに使いたくなかったので普通に精算してもらった。活用次第では怖いものがある。

他にもあるようだが、部屋で説明する時に一緒に教えてくれるそうだ。

かなりの情報がありそうで今から戦々恐々だ。


「お兄ちゃん。そろそろ部屋に行こうよ」

「そう、だな」


物は試しにと道行く人達に片っ端から七機は声をかけた。反応は無く。胸を張って帰ってくる姿は間違いじゃないでしょ? と言っているようである。

そんな訳で、安全性が確保されてしまったためにこうして帰ってきてしまい。部屋へと向かうことになった。

まぁ、ここで安全性が確保されなかったら、どこに連れ込むべきかで悩むことになったので救いは救いだ。

しかし、いたいけな少女を二十歳超えの俺が連れ込む光景が誰かの目に映るかもしれないと考えると怖いものがある。

観測者としての才能を持たない人ばかりだと嬉しいな。

暗証番号を押してドアを開いて真っ暗なホールをすいすい歩く。暗いと言っても外からの光で大抵の場所は把握出来てしまうので特にぶつかることはない。酔っ払っていれば別であろうが。

ボタンを押してエレベーターを待つ。

中から現れた先輩へ頭を下げた。


「お疲れ様です」

「おう、お疲れ〜」


先輩に挨拶し、空いたエレベーターに乗って上へと向かう。

職場の上が寮であるので多少の寝坊もなんとかなるのがここのいい所だろう。出勤時間一分も無いのでギリギリまで寝てられる。

何度か寝坊者を起こしに行ったりもしたけど、それはそれで仕方ない。下っ端の悲しい運命だ。


「しかし、やっぱり見えてないんだな」

「当たり前だよ。観測者やその片鱗を持つ人はこっちでも分かるからね。自然と避けてる」

「裸に近いボロボロの服を着てる時点で変態扱いされそうだもんな」

「うぅ本当だから否定出来ない。でも、お兄ちゃん酷い」

「なら、さっさと着替えろよ」

「部屋で説明するから、その時に一緒に着替えるよ」

「そうかい」


後ろを歩くからその姿を見ることは無いのが救いである。

とは言え、危険な少女を連れて歩くことに抵抗はある。警察がニコニコしながら肩に手を置く可能性がゼロでない以上不安は尽きない。


「早く早く〜」

「はいはい」


背中を押されて部屋へと急ぐ。不思議でしかないが、現実は受け入れるしかない。

事実は小説より奇なりってことなのだろう。

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