戦況
「やあああ」
変わらない気の抜けた掛け声。なのに鋭い剣さばきでガルムと対峙する。
先程と変わらず、見ているだけの俺ではあった。しかし、先程と全く同じというわけでもない。三つの変化がある。
一つは心構え。
巻き込まれて仕方なく見ていたさっきとは違う。自ら積極的に動き、凶悪なガルムの容姿に対して一歩も退かずに視線を向ける。時折向けてくる殺気に動じないようにするので精一杯ではあったが、心構え一つでマシにはなっていた。
二つは距離。
先程よりもずっと距離を近づけている。これは、七機を信用しているからでもあった。
ガルムを俺に向かわせずに押し留められると信用しているからこそ、近くで核を探すことに注視出来る。傷口から僅かでも見つけさえすれば七機が叩き切ると信じているのだ。
三つは時間だ。
片眼鏡に表示された数字。それが二になっていた。つまり、二秒先の未来が見えると言うことなのだろう。
何が切っ掛けで変化したのかは分からない。分からないけれど、強化されたのであれば全力で使うべきなのだ。
俺も七機もここで死ぬ訳にはいかない。
「とりゃああああ」
『があああ!』
叫びあいながら剣と前足が交差する。
パリーンと大きな音を立てて砕けるのは七機の大剣だった。ガルムの前足には傷一つ付いてはいない。
強度が増しているようにも思える。だが、原因はそれだけでは無いようだ。
「七機!!」
「にゃはは。困ったね」
柄を振れば刀身の細くなった剣が作られる。大剣と比べたら二回りほど細くなっているようにも見えた。
それを使ってガルムの攻撃を受け流して防御に回る。
攻撃の瞬間が事前に分かるからこそ、完璧な受け流しが出来ているが、攻撃に対して武器の耐久性が間に合っていない様子だ。既に罅が入っている。
攻撃能力と防御能力が先程よりも増しているのが分かる。
しかし、眼前のガルムに変化は見られない。ただ、いたぶることが楽しいようで縦横無尽に前足を振るっている。見た目犬の癖に猫のようである。
「何が起こってるんだ?」
不安はある。
だが、疑問を解く方がいいと判断して七機の戦闘から視界を外さぬようにしながら場所を少しずつ移動させてガルムの姿を確認する。
「そういうことかよ」
大きな思い違いをしていた。
ガルムは、犬のように見えるが犬などでは決してないのだ。純粋に化け物であった。
その証拠が、眼前にある。
「下半身が無くなって、空中に浮いてやがる」
それが、攻撃能力と防御能力が増した理由なのだろう。見た目に差異はなく。正面から見た場合には薄く足があるように見せている。だから、能力がいきなり上がったように錯覚していた。
でも、そうではなかった。
少しずつ前の方に質量を移し、能力を向上していたに過ぎないのだ。
「だけど、それなら核はどこに……?」
後ろに核は無さそうだ。完全に透けていて向こう側が見えているのに核があるはずが無い。ならば、前方にあるのだろうが、強力になった防御能力を崩せない今の七機ではどうしようも無い。
先程から、幾度も武器が破壊されている。その度に破片や木を掴んで新しい武器を作っているが、ジリ貧だ。何か別の方法で攻撃しないとどうしようも無い。
俺が、囮になるか?
「お兄ちゃん!!」
七機の叫び。
俺に何かが起こるのかと身構えるが、視界の中にいるガルムに変化はない。むしろ、攻撃が激化していた。
「七機!!」
破壊された剣が宙を舞う。そのままの勢いで七機まで吹き飛ばしたガルムは、大きく口を開いていた。
噛み砕くつもりなのだ。
転がっていた手柄杓を咄嗟に掴んで七機へと投げる。
二秒前の今ならば間に合う。そう信じてだ。
「ナイスだよ!」
判断は一瞬。
鍛えてない体で届くのか心配ではあったが、手柄杓は無事に七機の手に届き、薄い刀がガルムの口を横一閃にする。
両腕に裂傷を抱いているようではあったが、くるりと回転して着地し、こちらに走ってくる七機の腕は綺麗なままである。
人形。とは言っても回復能力が高すぎる気もする。そもそも、
「囮ってどういうこと!!」
「心が読めるのかよ!?」
先程、お兄ちゃんと呼ばれた意味を理解して叫んでしまう。
あれで隙が出来て襲われるなんて思いもしなかった。
一先ずガルムが怯んでいる間に場所を移動。
作戦会議が必要になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます