第41話『マッサージ-後編-』

 中間試験が来週に迫っているので、夕食を食べてからも試験勉強。今日は高嶺さん達と勉強したから、いつも以上に集中できている。

 ――プルルッ。

 スマホが鳴っている。確認すると、LIMEで高嶺さんからメッセージと写真が送られてきていた。


『勉強会の休憩で誕生日が話題になったから、今日は生まれたままの姿の写真を……と思ったけど、それは恥ずかしすぎるので止めました。でも、普段よりも露出度高めの写真だよ。これで試験勉強を頑張ったり、色々出しちゃったりしてね!』


 そんなメッセージと、ふとんを掛けた高嶺さんの写真が送られていた。見えてはまずい部分はふとんで隠れているけど、胸の谷間がしっかりと見えているしとても艶やかだ。確かに、普段よりも露出度は高めだな。きっと、裸の上にふとんを掛けているのだろう。

 あと、俺は高嶺さんにこういう写真を見ると勉強を頑張れるイメージを持たれているのか。何を出すのかは……考えないでおこう。


「とりあえず保存しておくか」


 高嶺さんに告白された日から、夜になるとこうして自撮り写真を送ってくれる日が多い。なので、俺のスマホのアルバムには高嶺さんが写っている写真が何枚もある。それらの写真を使って変なことはしてないけど。


『今日もありがとう。あと、風邪を引かないように気を付けて。中間試験も近いから』


 今日も夜になってからは肌寒いし。ふとんを掛けていても、服を脱いでいたら寒そう。


『どういたしまして。体調を気遣ってくれるなんて嬉しい。ありがとう! 大好き!』


 という返信が高嶺さんからすぐに届いた。まあ、この調子なら大丈夫そうかな。

 ――コンコン。

 ノック音が聞こえたので部屋の扉を開けると、そこには寝間着姿の芹花姉さんが。お風呂上がりだからか、扉を開けた瞬間にシャンプーやボディーソープの甘い匂いがふんわりと香ってくる。


「ユウちゃん、お風呂空いたよ」

「分かった」

「あと……マッサージをお願いしてもいいかな? 今日はバイトがあったから、肩だけじゃなくて脚も揉んでほしいなぁ」

「いいぞ。2時間くらい勉強していたから、いい気分転換になりそうだ。ここでやる? それとも姉さんの部屋に行く?」

「ここがいい。ユウちゃんの匂いがするから」

「……そうか。じゃあ、中に入って」

「はーい。お邪魔しまーす」


 芹花姉さんは俺の部屋の中に入ると、ベッドの近くにあるクッションに腰を下ろす。まずは肩からやれってってことかな。

 俺は芹花姉さんの後ろに膝立ちをし、さっそく肩を揉み始める。気持ちいいのか、姉さんは可愛い声を漏らしている。


「入浴直後だからか、いつもよりはマシだ」

「うん。あぁ……気持ちいい。お風呂も気持ち良かったし幸せだよ。明日は日曜日でお休みだし」

「それは良かったな」

「ふふっ。バイトがあったからなのは本当だけど、実は夕食後に結衣ちゃんから『悠真君の肩揉みが最高でした! お姉様が羨ましいです!』ってメッセージが来てね」


 芹花姉さんにそんなメッセージを送っていたのか、高嶺さんは。よほど気持ち良かったんだろうな。それだけの技術を身に付けることができたのは、姉さんや母さんのおかげだと思っている。


「実は今日の勉強会で高嶺さんと華頂さんの肩を揉んでさ。そのときに普段から姉さんや母さんに肩揉みしているって話したんだよ。2人とも気持ち良さそうだったな」

「そっか。華頂さんっていうのは……ユウちゃんの初恋の人か。多分、私が一番多くユウちゃんに揉まれてると思う。それでも『肩揉まれて気持ち良かった』ってメッセージをもらうと羨ましくなっちゃって。嫉妬に近いかも。ユウちゃんに肩を揉まれる女性は私やお母さんだけだと思っていたから。ちょっと寂しい気持ちもある」


 そう言って、芹花姉さんは俺の方に振り返って微笑みかけてくれる。非常に姉さんらしいなと思う。


「これまで、姉さんや母さんをたくさん揉んできたからな。ただ、これからも姉さんが揉んでほしいって言えば、俺はいつでも揉むつもりだぞ。嫉妬するのは自由だけど、安心してくれると嬉しい」

「……ユウちゃんらしい。ありがとう」


 芹花姉さんはにっこりとした笑みを見せてくれる。きっと、今のような笑顔を見せながら、今日も接客のバイトをしたのだろう。黄金色の天使って言われるのも納得かな。


「よし、肩はこのくらいでいいかな。結構ほぐれたと思うけど」

「……うん、だいぶ楽になったよ。さすがはユウちゃん。じゃあ、次に両脚をお願いします」

「分かった。じゃあ、ベッドにうつ伏せになって」


 俺が掛け布団をめくると、芹花姉さんはうつ伏せの状態でベッドに横になった。そんな姉さんを見て、横になっているのが高嶺さんや華頂さんだったらどうなっていただろうと考えてしまった。

 俺はさっそく芹花姉さんの両脚を揉み始める。


「どうだ、姉さん」

「うん、とっても気持ちいい。ベッドで横になっていると、ユウちゃんの匂いも感じられるし本当に幸せだよ」

「幸せに感じるポイントがたくさんあるねぇ、姉さんは」

「だって、ユウちゃんの部屋で、ユウちゃんにマッサージをしてもらっているんだもん。それに、何よりもユウちゃんっていう素敵な弟がいるからね。だから、私はずっと幸せ者だよ」


 芹花姉さんはとても柔らかな笑みで俺を見つめてくる。大学生の今だからこういう反応で済んでいるけど、小学生の頃だったら絶対に俺の頬にキスをしていただろうな。


「そう言ってくれる人が俺の姉で良かったよ」

「……後でお礼に特上のハグをしてあげるからね!」

「ほどほどに頼むよ」


 芹花姉さんのハグ、たまに強すぎたり、胸に顔が埋もれたりして意識が遠のくことがあるから。

 両脚のマッサージを終えた後、芹花姉さんは俺のことをぎゅっと抱きしめてきた。それ自体は普段と変わらなかったけど、耳元で「ありがとう」と言ってくれたので、いつもよりも気持ち良く感じられたのであった。




『今日もバイトと試験勉強お疲れ様』

『ありがとうございます。桐花さんもお疲れ様です』


 入浴後、メッセンジャーで桐花さんとチャットをする。先週に続いて普段と違う週末を過ごしているからか、こうしていつも通りのことをしていると安心感を覚える。もちろん、話し相手が桐花さんというのも大きい。


『今日もお友達と一緒に勉強したんだよね』

『はい。分からないところを教え合ったりもしたので、結構捗りました』

『良かったね。私も友達と一緒に試験勉強したんだ。分からないところは訊けるし、休憩中にはお喋りできるし楽しかったな』


 俺も分からないところを教え合ったし、勉強の合間にはお菓子を食べながら楽しく喋ったりしたな。誰でも友達と勉強をするとそういう展開になるかもしれないけど、今の桐花さんのメッセージを見ると、彼女が近くにいるように思えた。


『そういえば、俺、勉強会の合間に友達から誕生日を祝われましたよ』

『そうなの? でも、低変人さんの誕生日って4月6日じゃなかったっけ?』

『そうです。ただ、休憩中に誕生日の話題になりまして。俺の誕生日を伝えたら、1ヶ月経ったけどおめでとうって。告白した子と仲直りした子から、とりあえずの誕生日プレゼントだって肩を揉まれました』

『へえ。プレゼントをもらえて良かったね』


 肩揉みは気持ち良かったし、高嶺さんと華頂さんに肩を揉んでもらってからは試験勉強により集中できた。今だって、普段の休日と比べたら疲れが溜まっていない。俺が肩を揉んだお礼も兼ねていると思うけど、とてもいい誕生日プレゼントをもらったと思う。


『学校の友達にもらえるのは嬉しいですね。初めてですから。ただ、桐花さんのくれた誕生日プレゼントも良かったです。あのミニアルバム何度も聴いています。漫画を読んでいるときにも聴いていますし、曲作りのアイデアにもなっています』

『ふふっ、良かった』


 去年はおめでとうというメッセージだけだったけど、今年は誕生日の数日前に、俺の好きなアーティストの星加源ほしかげんの配信限定のミニアルバムが発売されたため、桐花さんからプレゼントされたのだ。ネット上で繋がっている友人らしいプレゼントで、嬉しいと同時にほっこりとした気持ちにもなった。


『さっきも言いましたけど、とりあえずのプレゼントが肩揉みってことは、まだ何かプレゼントがあるんでしょうかね? 明日も今日と同じ友達と一緒に、俺の家で勉強会をすることになっていて』


 華頂さんと伊集院さん、中野先輩が俺の部屋がどんな感じか気になるそうで、明日の勉強会の開催場所がここに決まったのだ。


『……どうだろうね。ちなみに、とりあえずって言ったのは誰なの? 例の告白した女の子?』

『そうです』

『だったら、期待してもいいかもよ。これまでの低変人さんの話を聞く限りそう思える』

『そうですか。まあ、もらえたら嬉しいくらいに考えておきます』


 桐花さんにはそうメッセージを送ったけど、高嶺さんの性格からして、誕生日を知った以上、何かプレゼントしないと気が済まない気がする。

 あと、明日の勉強会の参加者は柚月ちゃんを除いたメンバーだから、みんなで何かプレゼントしてくれたりして。何だかんだ期待してしまう。


『桐花さんも明日はご友人と一緒に勉強するんですか?』

『うん。友達の家でやるよ。分かりやすく教えてくれる子もいるから安心だよ』


 そういう友達が1人でもいると心強いよな。

 それからすぐに桐花さんとの会話が終わり、彼女がプレゼントしてくれたアルバムを聴きながら試験勉強をしたり、思い浮かんだメロディーをギターを使って録音したりするのであった。

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