第10話『タピる。そして、チャレンジ。』

 学校から歩いて数分ほどなので、あっという間にエオンに到着した。ここにはたくさん来たけど、高嶺さんと一緒だから初めて訪れた場所のように思える。

 さっそく、高嶺さんの行きたいお店に向かう。

 周りを見てみると、手を繋ぐ制服姿の男女がちらほらいる。今まで、俺には縁のない光景だと思っていた。まさか、高嶺の花の高嶺さんと手を繋いでエオンの中を歩く日が来るなんて。


「ここだよ、悠真君」

「……タピオカドリンクか」


 目の前にあったのは、可愛らしい外観のタピオカドリンク店。今年に入ってからオープンしたのは知っていたけど、一度も来たことがなかった。人気なのか、カウンターに向かって列ができている。


「悠真君と一緒にタピろうと思って」

「タ、タピろう?」

「タピオカドリンクを飲むことを『タピる』って言うんだよ」

「へえ、そうなんだ。初めて聞いた」


 その言葉が流行っているのかどうかは分からないけど、そういったことをクラスメイトに教えてもらうとおじいさんになった気分だ。ちなみに、タピオカドリンクを飲んだことはある。

 さっそく、俺達は列に並ぶ。見たところ、列には制服姿や大学生くらいの若い女性が多い。高嶺さんと一緒じゃなかったら、空気的に並べなかったかも。


「悠真君は何を飲む?」

「コーヒーが好きだから、コーヒー系のドリンクがいいなって思ってる。高嶺さんは?」

「私はミルクティーにしようと思ってるよ!」


 高嶺さん、テンション高いな。そんな高嶺さんが可愛いからか、前に並んでいる人や近くを歩いている人が、顔を赤くしてこちらを見てくる。ただ、俺と手を繋いでいるからか、高嶺さんに話しかけてくる人はいなかった。

 俺はタピオカコーヒー、高嶺さんはタピオカミルクティーを買う。

 近くに休憩スペースがあり、俺達は2人用のテーブル席に向かい合う形で座る。高嶺さんがタピオカミルクティーをスマホで撮っているので、俺も真似した。コーヒーだから、パッと見るとタピオカが入っているのかどうか分からない。


「じゃあ、タピオカミルクティーいただきまーす!」

「コーヒーいただきます」


 タピオカコーヒーを飲むと……おっ、口の中にタピオカが次々入ってくる。このお店のタピオカは甘く味付けされているんだなぁ。ブラックコーヒーでちょうどいい。


「ミルクティー甘くて美味しい! 好きな人とタピるのは最高だよ!」

「良かったな。コーヒーも美味しい。タピオカ自体が甘いから、ミルクティーはかなり甘そうだ」

「そうだね。でも、甘いものは大好きだから大丈夫だよ! どのくらい甘いかどうか確かめるためにも、一口飲んでみる?」

「……い、いいのか? その……間接キスになるけど」

「ドキドキするけど、悠真君なら大歓迎だよ。悠真君となら、間接どころか唇を重ねて、舌を絡ませるほどのキスをしたいと思っているし」

「……そ、そうか」


 それを公然の場で平然と言えるところが凄い。今の俺達の話を聞いていたのか、近くにいた女子高生達が、頬を赤くしながらこちらをチラチラと見ている。

 高嶺さんとは昨日、玉子焼きを食べさせ合った経験もあるからいいか。


「分かった。ただ、高嶺さんってコーヒーは飲めるか? このコーヒーに砂糖やミルクは入っていないし。確か、昨日のバイト中に来たときも、コーヒーじゃなくて紅茶を飲んでいたからさ」

「コーヒーはカフェオレが限界だけど、タピオカが甘いし飲める気がする。それに、悠真君が口をつけたものだから……」


 うっとりした様子で俺を見てくる高嶺さん。


「一度、試してみるのがいいな。じゃあ、交換するか」

「うん! ちゃんとストローで飲んでね」


 俺達は互いのドリンクを一口交換することに。

 ストローでタピオカミルクティーを一口飲むと、高嶺さんが口を付けた後だからかとても甘く感じられる。茶葉の味もしっかりしているから飲めるが。

 高嶺さんを見ると、コーヒーが苦いのか高嶺さんは苦い表情を浮かべている。


「な、なかなか苦いね。タピオカが甘くて良かった」

「そうか。ミルクティーはかなり甘かったな。俺はコーヒーの方が好みかな」

「私はミルクティーの方が好みだね。……でも、悠真君が口移ししてくれるなら、コーヒーも美味しく感じるかもしれない。一度試してみたいな」

「口移しは勘弁してくれ」


 それはさすがに恥ずかしい。そもそも、高嶺さんとキスする気はない。

 俺達がお互いのドリンクを交換したからか、さっきチラチラと見てきた女子高生達の頬の赤みが増している。きっと、仲のいいカップルだとか思っているんだろうな。


「タピオカコーヒーありがとう」

「いえいえ。ミルクティーもありがとう」

「ふふっ。……そうだ、タピオカチャレンジしてみようかな」

「タ、タピオカチャレンジ? 何だそれは。口の中にどれだけタピオカを入れられるかどうかとか?」

「ううん、違うよ。胸の上にカップを乗せて、ストローを使って飲むの。そのとき、手を添えていたらダメなんだ。ある程度胸が大きくないとできないんだよね。大きくないと」


 なぜ2回言った。

 胸の話をされたから、思わず高嶺さんの胸を見てしまったではないか。大きさ的にチャレンジが成功しそうな気がする。


「家ならともかくここでやるのはなぁ。それに、失敗したらどうするんだ?」

「近くのお手洗いに行って、今日の体育で着た体操着とジャージを着るよ」

「……なるほど。それならまあいいか」

「じゃあ、これからチャレンジするから、悠真君は見届け人ね。ちゃーんと見ないとダメだよ? 成功したら、証拠として私のスマホで撮ってくれるかな?」

「何てことをさせようとするんだ。……仕方ないな。ここは家じゃないし、一度だけだぞ」

「うん!」


 高嶺さん、嬉しそうだな。

 カメラモードにしたスマホを俺に渡すと、高嶺さんは胸の上にタピオカミルクティーの入ったカップを乗せる。そのせいか、さっきよりも胸が大きく見えるぞ。あと、告白されたときに高嶺さんが胸を押し付け、ブラウスのボタンを外して胸の谷間を見せてきたことを思い出した。


「さあ、タピオカチャレンジは成功するのでしょうか。いくよー」


 高嶺さんはストローを咥えて、ゆっくりと右手を離す。

 すると、タピオカミルクティーの入ったカップは……微動だにしなかった。そのまま高嶺さんはタピオカミルクティーを飲み始める。見事タピオカチャレンジ成功。


「おぉ、凄い」


 正直、胸の上にカップを置くことができるか半信半疑だったこともあり、成功したことがとても凄いと思える。気付けばそれが声に出てしまっていた。

 俺が凄いと言ったのもあってか、高嶺さんはストローを咥えたまま笑顔に。それがとても艶めかしくて。俺がスマホを向けると、高嶺さんは右手でピースサイン。そんな高嶺さんの姿を撮影した。


「成功したね!」

「良かったね、高嶺さん。はい、成功した写真をちゃんと撮ったよ」

「ありがとう」


 高嶺さんにスマホを返す。

 上手く写真が撮れていたのか、高嶺さんはスマホの画面を見ながら達成感に満ちた表情を浮かべていた。

 ――プルルッ。

 俺のスマホが鳴ったので確認すると、LIMEで写真とメッセージが届いたと通知が。


『チャレンジ成功を見届けてくれたお礼だよ!』


 というメッセージと、さっき俺が撮影したタピオカチャレンジを成功した写真が送られてきた。何というお礼だろうか。

 ただ、この写真を見てみると、ストローを咥えてピースをする高嶺さんは可愛いし、胸が大きいこともしっかりと伝わってくるし、高嶺さんの魅力がたくさん詰まっているように思える。我ながら、なかなかいい写真を撮ったと思いつつ保存した。


『どうも』

「いえいえ」


 高嶺さんはニッコリと笑ってそう言うと、タピオカミルクティーを飲む。

 俺もタピオカコーヒーを飲む。タピオカミルクティーを一口もらった後だからなのか。それとも、高嶺さんが飲んだ後だからなのか。さっきよりも甘みとコクが感じられた。

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