第4話 部展の準備を始めます

「頑張っとるねー。はいお菓子~」


 毎度おなじみのマスコット先生……違った寺下先生がお菓子を持ってきてくれる。

 今日はチョコクッキーを持ってきてくれた。春限定発売のやつだ。


「わぁー!ありがとうございます!」

「私、季節限定に弱いのよ。アハハハ」


 確かに、寺下先生がくれるお菓子は季節のものが多かった。なるほどそんな理由だったのか。

 寺下先生は、続けて新たな紙を取り出した。その紙を覗きこんでみる。

 それは、前期の部展会場図だった。


「ああ。もうそんな時期ですか」

「そうよ。作品どんどん貯めといてね」

「あのー?なんですそれ?」


 穂希が興味ありげに聞いてくる。

 そうか、一年生は初めての部展だったな。

 俺たちJ高校の書道部は、GWと三月頃の二回、部展を開いている。部展とは、要は日頃作っている作品のお披露目会のようなものだ。

 だが、会場は地元の大学のプラザを借りて行うため、規模はある程度大きいと思う。なんせ美術部と同じ会場を使うから。

 部展に出すのは、何も半紙作品だけではない。半切作品や全紙作品、遊び心満載で書いた作品など。お客さんを楽しませる作品を出すのだ。

 三月には遥が面白い作品を作っていたな。確か……団扇に〔元気〕と書いて、その下に顔がパンの某国民的キャラを載せていたな。

 そんな作品を出すのだ。かなり自由な展覧会だと分かってもらえただろうか?

 ふむ。競書大会に出す作品はもう大体決まったし……。何を書こうか?

 先生にもらったクッキーを頬張って、腕を組んで考える。

 少し大きめの作品を書きたいが……時間はあるだろうか?残された時間で作れるのは……扇子や団扇作品かな?

 ふと気になるのは例の半紙。


「……さりげなくアピールしてみるか?」


 団扇にそれっぽいことを書いたら、何かしら反応を得られるのではないだろうか?

 よし!そうしよう!

 俺は、寺下先生にその事を伝えてみる。


「先生。団扇作品書いてみたいです」

「いいよ。また百均で買っておくね」


 よぉーし!第一段階クリア!

 自分でも何言ってんだと思ったが、嬉しさの表現としては間違ってない。

 よしよし。勝負はGWだ!

 その期間中に彼女と遊びに行けないのは残念だが、まだ夏休みがある!今は急ぐときではない。

 そうと決まれば、団扇になんと書くかを決めないと。

 あの半紙の返事になりつつ、みんなと被ってない文字。

 ……条件厳しいな。

 とりあえず、一年生の子たちに何を書くのか聞いてみよう。被らないためにも必要だ。

 席を立って一年生の元へと歩いていく。すると、穂希が面白そうなものを用意していた。

 机の上には、桃色の墨液。それと仮名用の筆と半紙だ。

 俺と有紗と憂愛が見ているなか、穂希が筆を墨液に浸けた。先端が桃色に変わっていく。

 さらさらと流れる動きで文字が書き上がっていく。連続する仮名特有の書き方が、何とも美しかった。

 一通り書き終わると、寺下先生がチェックする。


「君に恋ひ 甚も術なみ 樽山の 小松が下に 立ち嘆くかも……。上手く書けてるよ。恋の和歌?」

「あっはい……。こういうのもいいかなぁー?って思って」


 恋の和歌か……。確かにいいかもしれないな。ま、それはさすがに被りそうだから控えておくけど。

 有紗は……まだ競書大会の作品を書いていて部展の作品までは考えてないのか。

 席に戻って筆を取る。何を書くかは決めた。

 筆を墨液に馴染ませて書いてみる。初めて書いたのだが、中々上手くできているのではなかろうか?

 この調子でもう一作と思ったが、ここで部活終了のチャイムが鳴った。どうにも気が抜けるなぁ。

 硯を片づけ、筆を洗う。水道の窓から見た外は、いつの間にか陽が落ちて暗くなっていた。

 こういうときって、時間の進みが早いよね?

 下敷きを仕舞って机を整頓する。それから、文鎮を文鎮入れに戻したら片づけ終了だ。

 鞄を背負って体操服入れを持つ。一年生はまだ片づけをしてるけど、一足先に帰らせてもらおう。


「さよならー」

「「「さよならでーす」」」

「バイバーイ。また明日頑張ってねー」


 暗い廊下を歩き、駐輪場へと向かう。

 自分の自転車を見つけてまたがる。そして、スマホを開いた。

 いつの間にか、LINEが百件を越えて送られてきていた。

 慌ててトーク画面を開く。そこには……。


『牛乳切れた。買ってきて』

『もしもーし?』

『既読つかないけどー?』

『スタンプ』

『スタンプ』

『スタンプ』   ……etc


 姉ちゃんからの大量のスタンプが送られてきていた。

 ……データ通信料どう考えてるんだか?

 仕方ないけど牛乳買って帰るか。

 勘違いしないでほしい。これは姉ちゃんの為ではなく牛乳好きの拓巳の為だ。

 帰り道のスーパーで牛乳を買って家へと帰る。牛乳をかごに入れたまま坂を登るのはキツかった。

 なんとか家にたどり着き、中へと入る。

 家からは、まろやかな香りが漂ってきた。これはカルボナーラだろうか?

 拓巳の作るカルボナーラは最高だ。この牛乳はソースになるのだと考えると……苦労して良かったかな?と思う。

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