第2話 午後からの授業は波乱です

「……それで、誰の字なのそれ。仮にも書道部副部長でしょ?」

「仮じゃねぇから。あと、微妙に筆跡変えてるから断定しづらいんだよ……」


 昼休み、206HRの端で俺たちは話している。

 昨夜にLINEを送り、こうしてポッキー片手に相談に乗ってくれているのは三好 優斗。俺の中学からの友達だ。

 顔立ちも整っているいわゆるイケメンの分類なのだが、ロリを愛するがゆえに残念感がはんぱなかった。

 本人は気づいているのか知らないが、一部ではロリ神様とか呼ばれている。


「それにしても……ついに松下に彼女かー、いいなぁー」

「決まった訳じゃないから。お前だって彼女くらいすぐできるんじゃね?」

「いや、僕は小さい子が対象だから」


 こんなこと言わなければかっこいいのにな~……と思いつつ、もう一本ポッキーを囓る。

 うん。イチゴチョコも捨てたもんじゃないな。


「……で?僕たち普通にポッキー食べてる訳だけど……松下はどうしたいわけ?」

「そりゃあ差出人を見つけたいさ。俺の人生にようやく色がつくんだぞ!」


 なんたってかれこれ十七年間も灰色の日々を過ごしてきたのだ。そろそろ報われてもいいだろう。


「……でも、なんで名前がないんだろうね?」

「文字がかなり大きいから……名前が入らなかったとか?」

「普通その場合は裏に書かない?」

「まぁ……確かに」


 わざわざ俺の作品入れに入れていくあたり、書道部であることは間違いないはずだが、名前を伏せた理由は謎だ。


「この半紙の差出人の名前……とりあえず[x]としておいて……」

「どこぞのスパイかよ!?……でもまあ、それでいっか」

「怪しいのは、一昨日部室に入った子じゃないかな?」


 確かにそうだ。

 俺が最後に書道室に入ったのは三日前。この半紙はその後に置かれたのだろう。

 なら、誰でもいいから目撃者を探せばいいんだ。


「そうだな。ありがとな!ちょっと探しに行ってくるよ!」

「頑張って~。でも、もう授業始まるよ?」


 ちょうどその時予鈴のチャイムが鳴り、俺の勢いをどこかへ吹き飛ばしたのであった。





 五時間目の授業はコミュニケーション英語。だが、正直授業の内容はあまり頭に入ってこなかった。

 先生が単語を黒板に書いていくなか、俺は現在の状況をざっとノートにまとめていた。

 まず、現時点ではまだ書道部員全員が候補ということになる。誰が一昨日最後に残っていたかは寺下先生に聞けばいいだろう。となると、今できるのはこの文字の主の……。

 頭に軽い衝撃。思わず横を向く。

 そこには、少し笑いを堪えている遥の姿があった。


「ちょっと大丈夫?まともに当たったんだけど」

「大丈夫だよ……。でも、いきなりなにすんだ」

「ほら、英単語の発音。ボーッとしすぎよ」


 いつの間にか英単語の発音練習の時間になっていたらしい。

 俺の隣は遥なので、二人で発音を練習していく。


「地震」

「earthquake」

「賞」

「prize」

「恋人」

「今探してる」

「え?」


 しまった。ついうっかり言ってしまった。

 遥はキョトンとした表情を浮かべた後、肩を震えさせて笑い始めた。

 これは……放課後思いっきりいじられるな。


「いや、待った!それはちが……」

「はいっ!そこまでー」


 なんとも悪いタイミングで先生が発音練習を終わらせた。

 俺は、ノートに書く内容を変更する。

 とりあえず、遥をどうやって黙らせるかを考えないと!桜に言われる前に阻止しなくてはならない。

 結局、この日のコミュニケーション英語の授業は頭に何も残らなかった。

 うん、テストピンチ!





 六時間目は体育だ。206HRとの合同授業。

 まぁ、二年の体育は半分遊びみたいなものだ。とりあえず体動かしとけ的な。

 そういうわけで、今は201対206のサッカーの試合を行っている。

 味方からパスをもらい、ドリブルで敵陣に突撃していく。

 逆サイドに味方が上がったのを確認してパスを出そうとしたが、俺の前に優斗が立ちはだかった。


「おっ!いくぜ!」

「ばっちこい!通さないから!」


 お互い巧みな足さばきで競り合う。だが、サッカーに関しては俺の方が得意だ。

 左にいくと見せかけたフェイントで優斗を抜き去り、そのまま飛び出す。

 俺はそのままゴールに向けてシュートを……。


「あぶなーい!」

「うん?ごほっ!?」


 俺が顔を向けたのが悪かったのか、女子のコントロールがないのが悪かったのか知らないが、女子サッカーのコートからボールが飛んできて、俺の顔面にクリーンヒット。痛かった。

 そして悪いことに、後ずさった時に足元のボールを踏んでしまい、そのまま後ろにひっくり返る。頭を強打。

 慌てて数人の生徒と体育教師、そして優斗が駆け寄ってくる。


「ちょっ!大丈夫かい?」

「ぎ……ギリギリセーフ……」

「松下大丈夫か!?少し休んでも……」

「平気です。続きどうぞ……」


 みんなが心配してくれるなか、よく見知った人物だけはそうではなかった。


「ごめんごめん。足元ミスったー」

「ちょっ!ダメだよ桜ちゃん。きちんと謝らないと……」

「いいって美咲。松下はこんなことじゃくじけないから!」


 勝手なことを言う桜に対して俺は文句の一つも言ってやりたいが、今のはよけなかった俺にも非があるので強く言えない。

 結局、顔に痛みを抱えたまま体育の授業は終わった。

 俺、昼休みからろくな目にあってないな。

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