26 きっとこれから『絶愛』 01
少女は、髪を振り乱しながらトイレの便器に顔を近づけていた。
時刻は深夜を過ぎ、あと一時間もすれば少女の起床時間になるという頃。
布団に入るまでは、少女には予感があった。
お風呂で赤くなるほど体をこすっても、気持ち悪さがなくならない。
耳から徐々に体が腐っていく感覚に怖気すらあって。
少女は、腹の底から上がってくる塊を、止めどなく便器に流し込む。
最後にくる酸味に、少女は咳き込む。
咳き込みながら、口の端から涎が垂れ流される。
ぼたぼたと便器に貯まった水に落とされ、それが茶色の渦となって黄色と白が混ぜ合わされて。
思わず凝視してしまった少女は、胃から再度こみ上げてくる塊を吐き出す羽目になった。
空咳をし、しゃがみ込んで、壁に背を預けた。
口元を拭うことも億劫だったが、トイレ中に満たされる空気がそれをさせなかった。
酸味とトイレ独特の硫黄臭さと、目についてしまった便器の汚れとか。
よろよろと立ち上がって、レバーを引いて、吐瀉物を流していく様を眺めて。
咳き込んでから、トイレのドアを開けた。
空気が変わった感覚に、少女はようやく解放された気がする。
隣接する洗面所へ向かうと、電気も付けずに蛇口をひねって水を流す。
手のひらにあたるひんやりとした感触に、思考が鮮明になる。
水をすくい、口を数度濯ぐと、ようやく。
本当にようやく、落ち着くことができた。
ぎょっとして洗面所の電気を付けると、そこには。
鏡には肩をやや越した黒い髪に、ピンク色の可愛いパジャマを着た中学生の少女が立っていた。
しかし顔は血の気が失せて白く、瞳は雲のようにどんよりとしている。
少女は、相良美幸は。
自分を支えるように、洗面台に手をついて、息を吐いた。
「最悪………」
何に対して、と聞かれればそれはきっと全てと答えるだろう。
これから布団に戻って、時間まで眠ることはできなかった。
収まらない胸を、手で撫でても一向に治りはしない。
怖々と、美幸は自身の体を抱きしめた。
※参考資料
絶愛-1989/尾崎南
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