19 動揺の『テニスの王子様』 02

 新に先導されて、ゆうみがうさぎに会ったのはパソコン部の前だった。

「えぇ、どうしたの?ゆうみに三島くんもさ-」

うさぎは部室の鍵を閉める当番だったらしく、二人に会ったのはタイミングがよかったらしかった。

他の人は、帰ってしまったらしく誰もおらず。

うさぎ一人だったのを、ゆうみはありがたいと思った。

帰ってなくてよかったと安堵する新に、不機嫌オーラ全体のゆうみに。

うさぎは面白そうにケラケラ笑って、パソコン室の鍵を手のひらでもてあそびながら聞いた。

窓の外には沈む日、廊下を濃い影と濃い橙色が交互に並んでいた。

その廊下を歩きながら、うさぎは切り出す。

「で。二人とも、なにか用があったの?」

「あぁ。それで聞きたいことがあってな。ゆうみが」

「えぇ!!」

放った新にゆうみが、大げさに驚く。

嫌々、新につれて来られたゆうみの素直な態度は、うさぎにとって面白いものだった。

ゆうみとしては、新に遊ばれている感があって嫌で仕方ないのだが。

それを全て分かったから余計に、うさぎは笑えて仕方がない。

見ていて気持ちがいいというものだ。

それを知らず、ゆうみは下ばかりを見ながらうさぎに尋ねた。

「えっとね、吉田さんについてうさぎにさ、聞いてみたくて、来たの」

「初美?なんで、どうしたの」

思わず立ち止まって振り返るうさぎに、ゆうみはカケラがそのっと他人が聞いたら意味不明な単語を言い始めた。

話を聞いているうさぎでなければ、分からなかったであろうそれを。

うさぎはゆうみが全てを言い終えてから、口に出した。

ゆうみは彼女の内心を知らない。

から、待っていてくれることも何も知らない。

「カケラの持ち主が、初美なんだ。えっと、吉田初美。初美とはね、小学校から同じクラスで友達なんだ。でも最近はほら、三年生って今年で最後でしょう?だから、少し、ピリピリしてるね」

「そうなんだ」

部活動をしていないゆうみからすれば、うさぎのいう張り詰め感がよく分からない。

ここで、自分が部活をしてこなかったことが、尾を引くとは思わなかったが。

橙色がうさぎに降り注いで、別人みたいに映る。

「なんか、あったの?吉田さん」

「うぅん。運動系に所属している子たちは大体そんなもんよ。うちのパソコン部は制作したものを発表するから準備、大変だしね」

指折り数えるうさぎは、その準備の段取りを確認しているのだろう。

疎外感が身を浸していく感覚に、ゆうみは振り払うように話を続けた。

ふと、ゆうみはうさぎとこうして彼女の部活終わりに話すことが初めてあることに気づいた。

「部活の方は、うさぎ、見に行ったこととかある?」

「あるよ。体験入部のときにね。ずっとやりたかったみたいでさ、顔をキラキラさせてて。こっちも見てて応援したくなったもん」

その頃を思い出すうさぎの顔は、輝いて見える。

ゆうみの知らない頃のうさぎ。

あぁ、嫌になるなと思いながらゆうみは、あの時見た初美のことをうさぎに言おうかどうしようか迷った。

迷った末にやめた。

やめたゆうみをうさぎは、気遣わしげな視線を向けただけで何も言わなかったから。

ゆうみはそれで、終わりにした。


**


だが。 

ゆうみは、次の日。

吉田初美に呼び出されて、ゆうみは頬を引っぱたかれることになる。

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