第二章 二つ目のナミダ

14 はじまりの『ドラえもん』

 頭が風船みたいに、まるで膨らんだようだ。

ゆうみは、自室のベッドに、仰向けで横になっていた。

うさぎと和解して、さぁ楽しいゴールデンウィークを過ごせると思った五月一日。

彼女は親戚の手伝いで一日、二日と駆り出される羽目になった。

つまり、手鼻を挫かれたということになる。

「はぁ………」

勢いもあったせいか、それを聞いた時はショックだった。

「やべぇ、何にもする気が起きない」

ゴールデンウィーク中にする宿題やゆうみ個人の担当の掃除。

部屋の片付けなど、積み重なって山。

「だれか、ドラえも~ん!」

「うるさいのう!だらだらしておらんで、とっとと片付けたらどうじゃ」

「わぁ、お母さーん!」

「お母さんではない!!」

ノックもなく開かれたドアの前に、仁王立ちする新。

ゆうみは、寝転んだまま天井へ向かって呻いた。

「三島くんにはわかんないよ~この、何のやる気も起きない気持ちを~」

「こちとら忙しいなか、来ておるのじゃから片付けろ」

そこまで時間を割いてくることなのと、思わず半眼になったゆうみを新は、見逃さなかった。

「ナミダのためじゃ!!!!」

新の雷が落ちる。

ゆうみは、ベッドから起き上がり、目をつり上げて怒る新を見上げた。

「でもさ、三島くんって、そういえばどこに住んでるの?」

「お主には関係のないことじゃ。それよりも、洗濯物ぐらい畳め」

「はい」

反論の隙を与えず、新はゆうみに背を向けて去って行く。

頬を膨らませながら、しぶしぶゆうみはベッドから足を下ろす。

立ち上がると、目の前が歪む。

軽い貧血にゆうみは、頭に手を当てながら呻く。

頭が痛いし、耳鳴りもする。

けだるげに部屋を出ると、新は台所で昼の用意をしていた。

ゆうみの担当とばかりに積まれた洗濯物が居間で待っている。

去年の今頃を思い出しながら、ゆうみは洗濯物の一つを手に取った。

台所で料理をする新が、自分の生活の一部になっていることに今更、気づかされる。

新のことを、ゆうみは知らない。

どんな立場なのか、なぜこんなにも色々としてくれるのか。

知らない、知らないことがありすぎる。

こうして新と二人でいるとき、否応なしに突きつけられる。

でも、一体なにをどう聞けばいいのか、分からない。

だから、ゆうみは聞きたくても聞けなかった。

こんなとき、うさぎの顔が思い浮かぶ。

聞いてほしかった。

このもやもやした気持ちを、うさぎと一緒に言葉にしたい。

「ゆうみ?」

「ふぇ、なに?」

顔を上げると、新は口をへの字にして、両手には皿を持っている。

「なにか、聞きたそうじゃのう」

「別に!なんでもないよ!!」

ぶんぶん、首を左右に振って、否定する。

新は眉をひそめただけで、居間のテーブルに皿を置く。

皿の上には、ミートスパゲッティが盛られていた。

そしてミートスパゲッティの先に、台座のペンダントがある。

四月三十日、放り投げて、部屋へ持ち帰ることなく、そのまま置きっぱなしになっていた。

色々と考えることがあるはずなのに、何も考えられない。

ただ、目の前に食欲をそそるスパゲッティがある、だけ。




※参考資料

ドラえもん/藤子・F・不二雄

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