11 奮闘気味の『ゲゲゲの鬼太郎』 04

 机の上の花の話をして以来。

うさぎに、避けられている。

兄の背に、子泣きじじいが張り付いてから一週間が過ぎた。

暖かな陽気と外出の際に必要のなくなった上着に、季節の移り変わりを知る。

ゆうみはあれから兄に、何かあれば相談してくれと訴えても。

苦笑して首をばかりで、相手にもしてくれない

「どうしよう」

受験を控える身としては、早急に解決したい。

長期化することは予想していたが、最初から躓くとは考えてなかった。

甘かったなと思いながら、お昼休みをいつもの外の渡り廊下の隅で膝を抱えていた。

兄のことを思う。

自分に心配をかけさせたくはないのは分かるが、話してくれないと何も分からない。

「どうしよう」

二度目の問いに、答える人はいない。

うさぎに聞いてほしくて、声もかけているが。

二重のどうしようが、重くゆうみの背にのしかかった。

自分の背にも子泣きじじいがいるかのよう。

「なんじゃ、元気ないのう。御巫殿もおらんようだし、ケンカでもしたのか?」

「してない、と思うけど………わかんないや」

クラスメイトに二人きりのところを見られて以来、新と恋人同士にされてしまった。

うさぎと登校して早々冷やかされたが、子泣きじじい事件ですっかり忘れてたし。

冷やかす側も、ゆうみたちの反応が面白くなかったようで、すぐに別の話題へと切り替えた。

つまり、受験と五月の連休の話に。

「ゆうた殿と少し、話をしたんじゃが。おぬしの祖母なる者が来るらしい」

「おばあちゃんが?」

何の用だろうと思った。

母方の祖母で、兄妹の保護者だ。

「また、一緒に暮らさないかというお願い、だそうじゃ」

「そんなの、しないよ」

両親が亡くなってすぐ、一緒に暮らしていた。

ゆうみとしては祖父母との生活は嫌ではなかった。

でも、小学校を卒業する頃になると兄のゆうたが、ぽつりと。

(窮屈だ)

と。

あそこにいては、ゆうみが人形になる。

何にもできない人形になって、取り込まれてしまう、と。

考えすぎじゃないのかなと言ったゆうみを連れて、中学へ入学する頃。

あのアパートに越してきた。

話し終わると、新は大きく頷く。

「この状況についてお主よりもゆうた殿の方が理解しているようじゃ」

確信を持って言われ、ゆうみはどういうことよ、と顔を上げる。

「ゆうた殿にお主が守られているということじゃ。状況を整理してみればよかろう。花のこともあるしな」

「状況の整理なら分かるけど、花は関係ないんじゃないの?」

文句を言うゆうみは、新に聞いた。

「関係ない、とは言い切れぬであろう。お主の子泣きじじいなわけじゃし」

「違うから!絶対に!違うから!!」

すっくと立ち上がり、ぶんぶん首を左右に振って否定するゆうみ。

猫のように目を細めて笑う新。

黒い髪が、揺れて。

太陽の下に翳した林檎飴の瞳と、紫水晶の瞳が美しいと思った。

そして唐突に、あの日、彼を追いかけた理由を見つけた気がする。

でもそれは春の日差しが見せた幻のように消えてしまった。

何でもない、と言ってゆうみはその場から立ち上がった。



四月三十日。

最後の四月。

祖母がうちに、やってくる。

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