18 帰還のジャングル

 リュックのスティーブを先頭に、その後、方向案内の紀美「もうちょっと右方向」と、携帯お手製ナビは使えている。


 オレの後ろは追い立て役の社長、ジャングルからの脱出が始まった。ホテルへ約5キロ、直線コースを迷わず選択した。ぬかるみを避け、山刀を振り、勘を頼りにケモノ道を切り開くスティーブ、最短方向は分からぬが絡み合った密植に出くわせば後退を余儀なくされている。紀美がよけた枝から手を放し、ムチのようにオレを叩いた。


「痛て!」

「ゴメン、ハァ、痛かった?」


「大丈夫、今さら」

 切らした息を調整するように立ったまま瞬時の休憩。


「フー、まだまだ、もうあと、3分の2」紀美が確認した。

「思ったより、長い、ナ」と社長。


 前方から「Do your best」と掛け声。踏破、再開。


 日本の石室を心配しだした社長、

「地下道は、かなり、長いの?」


「だいぶ、アチラの工区に、続いてて、ところで、社長は、あの石室、地図、どうしてあること、知ってたんすか?」


「占領されても、気づかれない所に、なんかの情報、残したって、親父の上官が」


「あれ、通信基地だけど、元は、遺跡っすよ」

「なんで、分かるの」と、紀美。


「石組みは古代物で、あ、美彩のメッセージ、ヤバイ、アチラは、どっかに地下道の入り口、開けて、教育委員会より先に、ハァ、目ぼしいもの、持ち出すはず、あとは証拠隠滅で、埋める」


「そりゃ、立派な犯罪、だ」と、社長。


「アチラは、解体屋で、企画屋で、建設会社で、遊戯屋で、スパイ組織で古物商」

「そんな組織、ある訳、ないだろ」と、社長。


「あります、日本に……トッディ」


 社長がよろけたようでしばし休憩。板状の根っこをベンチ代わりに座る紀美、

「社長が五十嵐さんの見積もりをケチるから、こんなことになるんじゃないですか。まさか、実行予算、あれ以上値切ったんじゃないでしょうね」

 よく言った、紀美。


「……今回は、思い切り踊らされちゃったな」と、社長。


「実際に地図と情報を発見したのは……まあ、五十嵐さんがドジッた偶然からなんですけど、それを解析したのは社長の直感があったわけですよね。最初のは大外れだったすけど」


「うるせー」

「それで、我々なら解明できると踏んで、五十嵐さんはアチラに情報を流して我々の行動を追跡させた、運が悪ければられ所だったですけど、そこまでは考えてなかったでしょうね」


「ひど〜〜い! そんなの、許せない、あの地下室、怖くて怖くてホントは……ホントは」

「なに?」

「なんでもない」


「……社長、あの遊園地が出来たのはいつ頃なんですか?」

「1970年代の後半、とんでもなく急いで建設した、って聞いてるよ」


 なんとも惜しい、先日までいた時代だ。遊び呆けてしまって社会の動きなど気にもしてなかった、情報無頓着は罪かも。ここは想像力でカバー、


「遊園地を計画した人は少なくとも地下に遺跡があることは知っていて、その近くに、お化け屋敷を配置、ある程度、遺跡を避けて、誰かに発見されるのを予測して、大事な部屋はとりあえず封印……本当のところを訊いてみたいすね」


「いくらなんでも、もう鬼籍でしょ」


「いずれにしろ盗掘を阻止しなければ、まずいすよ」

「なるほどな、やり方はいっぱいあるぞ、一つ二つ証拠を押さえるのも簡単だ」


「美彩ちゃんのメッセージにあった『新しい仮設路作った』って、完全にアウトでしょ。市民団体を装って教育委員会に通報、官憲とのW攻撃と云うのはどうすか」


「決めた、アチラをスクラップにしてやる。ウチの工区以外、工事を止めさせて遊戯機種も全部取り返す、まあ、この僕にまかせなさい」と、立ち上がりラストスパート再開だ。


*****


 ジャングルの端部に到達か、牧歌的な草地が見えてきた。どこに出たのかナビで位置を確認し、右方向を差す紀美。遮るものが無くなれば太陽がまぶしく、社長が熱く語る、

「日本側としては、冗談抜きで埋設文化財の破壊に文句をつけないと。それが、アチラの退治にもなる」


 泥まみれのツナギ姿、胸から下はイノコズチ、ロビーの片隅に直に座り、ペットボトルで喉を潤す4人の探検家、外国人客にドン引きされている。いくらなんでもダイニングのテーブルは利用できない。ショートのメッセージを待つ紀美。


「紀美ちゃんさ、美彩に、まず、今すぐ何か理由をつけて現場を離れること、今日は別のホテルを取ること、それから、日本に着く時間を連絡するから、関空まで僕を迎えに来てほしい、って打って」


「えっ! 社長も明日、一緒に日本に帰ります? 私たちは東京だけど」

「もちろん。これから港に行って、セブ島に戻って、できるだけ早い便で飛ぶよ」


 スマホを手に取り、ポピポピしだす紀美。社長はスティーブに先にシャワーを浴びるように促し「ツナギは捨てて」と、そしてオレに向かって、


「火山島の3人と宝探しの連中は別の組織、まあ、そうだとすれば」

「五十嵐さんが通じていたのはアチラの企業ですよね」


「アチラの企業は山下財宝を探していない。それなのに、あの地図を利用した。上で繋がっているのか……どういうことだ」


「あのですね、単純に考えればこういうことだと思うんです。社長と竹浪くんを有能でお人好しの謎解き探偵として利用した……だから、きっと今後も期待してますよ、見つけるまでは」

「……」


「見つけてしまえば、あらゆるチャンスやシチュエーションを作って、社長の命を狙うってことなんですよ、分かります?」

「やめてよ紀美ちゃん」


「で、五十嵐さんのことはどうするんですか。あの人、ボクに優しかったんですけど」前の竹浪にですけど。

「五十嵐かー、アイツ、今まで良くやってくれてたからな、とにかく直に話しをするよ」


「じゃ、社長、もしもですけど、スティーブさんが宝探しの一味だったら、どうします?」と、紀美。

「それだ、その方がラッキーだ、ベリーイージー、宝探しなんてやめればいいのさ、彼にそう宣言すれば、地道に清貧に、だ。」


 呆れながらも安堵し壁の時計を見る紀美、

「早いとこシャワー浴びて荷物まとめないと、船、出ちゃいますよ」


「スティーブはバングラオ島の空港からマニラに帰らせるよ。自分たちの荷物以外で忘れ物があったら、パサイの事務所に送っといて」


「社長、私たちも、このツナギ捨てちゃいますよ?」

「まだ全然着られそうだし、また、他で使うかも知れないから、洗濯して取っといてよ」


*****


「タクシーキタヨ」と、スティーブがロビーに呼びにきた。

 トッディ社用車のような、くたびれたタクシー。皆で荷物を積み込み送り出し。


「ホーンテッド脱出の部分、うまく運営できるかアイデア詰めてまとめといてよ。山の上の遊園地のオーナーとアチラは、まったく無関係だってデイブから連絡あったからさ」


「シーユー、スティーブ、社長、お気をつけて、美彩のことお願いしますねー」

 ふぅー、……去った。


「あーあ、チョコレート島、こんなんじゃなくて素敵なリゾートしに、もう一回来てみたいな。今度は海の方かな」


 ん、よーく考えてみれば、紀美と2人きり、同じ部屋……えっ!

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