第四十二歩 【リンの故郷】
俺たちは龍王の住処を後にするとメガロが運ばれていった場所をリンに尋ねた。
「治療とかの技術は龍人族の方が得意なの。だから恐らく、私の村に行ったんだと思うわ。どうせ客人を止めるのは龍人族の村になるから行きましょう!」
リンは俺たちを伴って、洞窟の中を進み始めるこの洞窟も天然の迷路となっており、龍族を守る役割を持っているそうだ。
龍族の守り人である龍人族はこの迷路の入り口で集落を築いているらしい。
本来であれば侵入者があれば龍人族が迷路となっている洞窟を利用し、確実に排除する手はずとなっている。
しかし、ミディの一件ではその仕組みが全く機能しなかったのだという。
「あの事件は今でも解決していないわ。どうやって霧を抜けたのか。どうやって龍人族の目を掻い潜ったのか。どうやって天然の迷路を抜けたのか。全てが謎なのよ・・・・・・」
リンが不安げに語る。
「だから、ミディが無事だって聞いたときは皆、大喜びだったわ」
「そうか、でもミディが龍王の息子だったとは思わなかったなぁ! 本当にびっくりしたよ」
「龍王の血筋はあらゆる結界を破る力を持つと聞く。だから城の結界も破壊できたのだな」
フェルが納得したように呟いた。
そういえばミディが飛び込んできたからあの結界が割れて逃げられたんだったな。
「龍王の血筋にあんなに好かれるたぁ、おしゃべりボーイも将来安泰だな!」
バーンがからかってくるが、俺はミディの事が気になっている。
龍王の血筋のミディ・・・・・・その卵を盗むなど生半可な者ができる芸当じゃない。
何か大きな事が裏で動いているようなそんな感覚だ。
それこそ、これとこれを渡して来た奴が関係しているのではないかと思う程に・・・・・・
俺は背負っていたバッグを前に回し、ファスナーを開く。
このバッグは城に潜入中、フェルの毛の中に隠していた。
フェルの毛は巨大化しているうちに物を仕舞えば小型化しても物が収納できる優れものだった。
四◯元ポケット?と思ったくらいだ。
それはさておき、俺はバッグの中から手のひら大の球を取り出す。
道中で渡されたという不思議な宝玉。
俺は意識が朦朧としていたのでよく覚えていないが、メガロの命と引き換えだと言われれば今でも受け取るだろう。
「警戒はしとくに越したことはないな・・・・・・」
俺は宝玉を見つめ、思案に暮れる。
「着いたわよ!」
リンの声がして俺はハッと顔を上げる。
すると森を切り開いたように開けた場所にたくさんのツリーハウスが並んでいた。
「はぇ~、綺麗な場所だなぁ」
俺はこの幻想的な風景に心を奪われた。
確かに渓谷や滝も綺麗だったが、ここの雰囲気は独特で美しいと感じる。
「じゃあ、治療場に案内するわ。すぐそこよ!」
俺たちはリンに付いて村の中を歩いていく。
周りには龍人族の姿もちらほら見られるが、俺たちを様々な目で見ているのが分かった。
「どうやら100%歓迎って訳じゃないみたいっすね」
「外から来た人たちなんて初めてだから・・・・・・気を悪くしないでね」
俺たちは周囲の目を気にしつつ、周りよりも一回り大きなツリーハウスへと辿り着く。
その中に入ると石で作られた水槽に入れられたメガロの姿があった。
「おう、リンか。頼まれた魔獣の治療は終わらせたぞ!」
奥から顔を出したのは龍人族の女性。
しかし、どことなく・・・・・・
「ありがとう! 助かったわ、姉さん‼」
やっぱり!
どことなく雰囲気が凛に似ていると思った!
リンと同じ、深紅の髪と瞳。
だけど、長髪のリンと違って肩程の長さの髪に大人びた相貌。
背はたいして変わらない様だがそれにしても・・・・・・で、デカい!
いや、リンも人並みだと思うけどあっちは明らかに・・・・・・ね。
俺は一瞬抱いた煩悩を振り払うと、にこやかに挨拶をする。
「初めまして、ルイです。えぇっと?」
「彼女は私の双子の姉で――」
「レヴィアティナ・ドレイシア。レヴィで良いぜ。妹が世話になったみたいだな。感謝する!」
俺はレヴィと握手を交わす。
その後は旅の経緯を詳しく聞かせろとの事だったから、メガロを治療してくれたお礼がてら今までの旅の内容をレヴィに語って聞かせたのだった。
「へぇ~、リンには聞いちゃいたが、ルイってよっぽどのお人好し何だなぁ」
俺はいつもの評価を甘んじて受け取る。
「でも僕達の事を聞いていたって、どういうことです? ここに来てからはそんな時間なかったですよね?」
コタロウは相変わらず鋭いなぁと思いつつ俺はお茶をすする。
「龍族と龍人族には特有の意識共有能力があるのよ。だから私たちは幼いミディとも会話ができるの」
「そ、だからリンがこの里に帰ってくる前に連絡をくれていたんだ。だからあの魔獣、メガロだっけ? 彼の治療にもすぐに移れたのさ」
得意げに豊満な胸を張るレヴィ。
リンとはかなり性格が違うようだが、兄弟仲はかなり良いらしい。
「あ・・・・・・ヤッバ!」
何かに気付いたように蒼褪め始めるレヴィ。
それに呼応するようにリンの表情まで曇り始める。
「もう、手遅れかも・・・・・・」
二人が顔を見合わせるとほぼ同時。
治療場のドアが開け放たれ、一人の龍人族が入ってくる。
今度は男性の様で角がリンやレヴィとは比べ物にならないくらい立派だ。
「リン、レヴィ。一体どういうつもりだ?」
重低音の様な声が響くと、名前を呼ばれた二人が明らかに委縮しているのが分かる。
状況が飲み込めない俺達を龍人族の男性は鋭い眼光で睨んだ。
あ、死んだ!
というのが、その時の率直な感想である。
「どういうつもりだと聞いている‼」
「え? な、何が?」
さらに怒気を増す声にレヴィが恐る恐る答える。
すると、男はリンとレヴィたちに近づいて行った。
「な、何故・・・・・・」
「へ?」
「なぁぜ、一番に父に会いに来んのだぁ‼」
その絶叫を聞いた瞬間、俺たちは全身に力が抜け、椅子から転げ落ちてしまった。
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