第四十三歩 【月夜の語らい】
「驚かせてしまってすまないな、お客人」
広間に腰を下ろしている俺たちに頭を下げる龍人族の男性。
「改めて自己紹介をさせてもらう。私はバルファ・メルト・ドレイシアと申す」
この人はリンとレヴィの父親にして龍人族の長。
あの登場には面食らったが、とにかく龍人族の中で一番偉い人らしい。
ってか、偉い人ラッシュで頭が追い付いて行かないな。
まぁ、龍王の息子であるミディの護衛なら龍人族長の娘であるリンが付くってのは当然か。
「此度は龍王のご子息と我が娘であるリンを助けて頂き、感謝致す」
「いえいえ、むしろリンには助けてもらってばかりだったので・・・・・・」
「そんなことないわ! あなた達がいたからミディを無事にここまで送り届けられたのだから!」
賞賛に慣れていない俺はむず痒くて仕方がない。
「聞けばあの忌まわしき王城に忍び込み、生きて帰ったとか? そのような話は聞いたことが無い! ご子息があれほど懐いているのも頷けるというものだな!」
「此奴は基本的に何もしとらんがな・・・・・・」
油断していたら賞賛に混じっていつもの棘が飛んできた。
こういう時くらい気持ちよくさせておいてくれよ。
まぁ、事実だから何とも言えないが・・・・・・
「そうですよ。それにリンとミディが来てくれなかったら脱出できなかったし! 俺なんて皆と話すことくらいしかできないですからね」
「いや、それだけでも素晴らしいことだ! 私も数百年と生きてきたが人間と話した経験などないからな! そもそも、龍の里にいて人間を目にしたことなどものの数回程だ。ましてや龍の里に招かれた異界人などルイ殿が初めてであろう!」
褒めちぎられていることも気になるが・・・・・・数百年!?
見た目はどう見ても30~40代くらいなのにそんなに歳重ねてんの?
驚いている俺を察したのかリンが説明してくれた。
「龍人族は龍の血を引いているから長命なのよ。大体平均で千年くらいは生きてるわ!」
千年かぁ、人間の十倍以上は生きるって事か。
それなのに威張り腐っている人間は多種族から見れば何とも浅ましい姿なのだろうと思う。
ん? って事は勝手に同年代だと思っていたリンは・・・・・・一体、何歳なんだ?
気にはなるが女の子に年を聞くような真似、俺にはとてもできない。
「どうしたの?」
リンの顔を見て固まってしまった俺は慌てて視線を逸らす。
「とにかくだ! 明日は再び龍王様に謁見するのだろう? 寝床を用意したからゆっくり休むと良い!」
バルファさんが従者を呼び、俺たちを寝室に案内するように託ける。
「あ、リンは残りなさい。話がある」
「えぇ。じゃあ皆、またあとでね!」
俺たちはリンと別れ、寝室にと足を運ぶ。
~数時間後~
コタロウやフェルたちは疲れからか身動き一つせずに眠っている。
一方、俺は考えが堂々巡りして眠れず、一人でベランダから青とオレンジに別れた二つの月を眺めていた。
「何故、霧に包まれているはずなのに月や星が見えるんだろう?」
俺が何気なく呟いた言葉。
それに答えてくれる人がいた。
「あの霧は結界の一種だから内側からは見えないのよ!」
リンだ。
「へぇ~、いやさぁ。この世界に来てからこんなにゆっくり夜空を見上げたことなんてなかったからさ。この世界の月も綺麗なもんだなぁなんて」
「ずっと思っていたけど、あなたって随分雰囲気が変わったわね」
「あ、あぁ。呪縛ってのが解けたらしいんだよね。これが本来の俺みたい」
俺がベンチのスペースを開けるとリンは横へ座る。
「お父様と話していたら遅くなっちゃった。本当はあなた達に話したいことがあったのに・・・・・・」
「話したい事?」
俺が質問を返すと、リンは少し思い詰めた顔になり下唇を噛む。
「私ね・・・・・・あなた達の事を見捨てそうになったの」
泣きそうになりながら言葉を絞り出した彼女はうつむいたまま続ける。
「ミディを送り届ける事こそ私のやるべきことだって・・・・・・でも、城に戦力が集められているって聞いて、頭が真っ白になって!」
目に涙を浮かべながら震えているリンに俺はどう声をかけていいか迷ったが、ここは素直な気持ちが一番だと思う。
「リンが俺たちの旅に同行してくれるようになってからさぁ。何回、俺のこと助けてくれたか覚えてる?」
「え?」
俺の質問にリンは顔を上げた。
「少なくとも両手で数えきれないくらい助けてもらってると思うよ。しかも、城ではリンたちが来てくれなかったら助からなかった。それなのに君を責めるなんて、そっちの方がどうかしてるって‼」
俺はベンチから立ち上がり、大きく背伸びをする。
「コタロウもフェルもシュウスケもメガロもバーンもミディも・・・・・・それにリンも! 誰か一人が欠けただけでも俺は今、ここにいない。だから俺は皆に感謝している!」
そんな事を高らかに宣言する俺を見て、リンはクスッと笑う。
俺もかなり気恥ずかしかったがリンが罪の意識を感じてしまうよりも百倍マシだ。
「呪縛が解けても根っこの部分は全く変わらないのね。本当にお人好し何だから・・・・・・」
「はは、それは仕方ないと思ってるよ・・・・・・でも、それだけじゃもう駄目なんだ」
俺は眠れないほど頭の中がいっぱいになっている考えを吐露した。
「駄目? どういうこと?」
「俺はこの世界に来てから呪縛があったとは言え、自分の力では出来ない事ばかりを追い求めた。その結果、俺の周りにいる皆を危険にさらしてしまったんだ」
俺はメガロが無事だと分かった時からずっとこの世界でしてきたことを振り返っていた。
自分の身に余る目標を抱え、焦り、結局何も出来ずに皆に頼る。
考えれば考える程、酷い奴だった。
「そ、そんな事! 皆、強制されてやっていたわけじゃない!」
「あぁ。皆、口ではあんなことを言っているけど優しいんだ。俺はそのやさしさに付け込んでいただけだ」
「・・・・・・ルイ」
まだ、考えはまとまっていない。
でも、このままではいけない事だけは分かる。
俺はこの世界で何をして、どう生きて行けば良いのか。
「リン、俺さ。フェルやメガロみたいに傷ついたり、住処を追われたりした魔獣たちを救いたいんだ。でも、俺にその力が無いことが今なら分かる。だから、足掻いてみようと思う! 龍王様はメガロの傷が癒えるまでここに留まることを許してくれたし、バルファさんに聞いたら龍人族の修練場を見せてくれるって話だから!」
俺は今の自分の限界を突き詰めることを心に誓っていた。
いつまでもフェルたちに負担をかける訳にはいかない。
「だからさ、もう少しだけリンの事を頼っても良いかな? 戦い方とか、魔法の事とか色々教えて欲しいんだ!」
「・・・・・・えぇ、分かったわ。ただ、無理だけはしないでね」
俺の決意にリンは不安げな表情を浮かべていた。
その表情を俺は心に留めながら、里の夜は更けていった。
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