けものみち 5本目 決意の道
第四十一歩 【龍の里へ】
俺は意識を失いかけていた。
連続で行使した回復魔法で俺の魔力は底を突いていたのだ。
だが、諦める訳にはいかない!
俺たちを救うために目の前で息絶えようとしている仲間を死なせてたまるものか‼
俺は吹き飛びそうになる意識を堪えて回復魔法を発動し続けた。
その後はよく覚えていない。
――どれくらいの時間が経ったのだろう?
俺が目を開けると辺り一面が真っ白だ。
自分がフェルの背中にいて、霧の中を進んでいるのだと理解したのはしばらくしてからだった。
「ルイさん、目が覚めましたか?」
コタロウが俺の肩にすり寄ってくる。
「あ、あぁ。本当に気を失ってばかりだな俺は。メガロは?」
「今は落ち着いていますが、ひどい怪我であることには変わりないです。でも、もう少しで到着するそうですから・・・・・・」
「到着? どこに?」
俺がコタロウに聞いた瞬間。
サァっと霧が晴れ、眼下に険しい渓谷と豊かな緑の森が広がる。
俺が目を見張っていると後ろから透き通った声がした。
「ここが私たちの故郷。龍の里よ!」
俺が振り返ると、顔にミディが張り付いてくる。
ミディを顔から剥がした先にはリンがまぶしい笑顔を向けていた。
「ここが・・・・・・龍の里か‼」
俺はリンに促され、フェルの背中から龍の里を見渡す。
「えぇ、普段はあの霧が侵入者を追い返す結界になっているの。その結界を通るためには龍族か龍人族の導きが必要なのよ」
「我も昔に来た時は入れなんだが、これほど美しいところだったのだな」
フェルが昔に思いを馳せているうちに俺はバーンが見てくれていたメガロの様態を確認する。
バーンの話ではここで本格的な治療さえできれば命を落とすことはないとの事だ。
「私は先に行って仲間に話を通しておくわ。侵入者として攻撃されちゃ大変だから」
リンはそう言うと翼を広げ、フェルの背中から飛び立つ。
フェルには『このまま一番高い岩山を目指して飛ぶように』と話していたな。
いずれにせよ、メガロを早く治療してやらなくてはいけない。
色々と考えるべきことはあるが、全てはそれからだ。
「お、どうやらお迎えが来たみたいっすよ!」
シュウスケが指さした方向を見ると、リンを先頭に何体かの大きな影が近づいてくる。
その影はまさにRPGに出てくるようなドラゴンだった。
「お待たせしたわね。あなた達を正式な客人として龍族の長がお認めになったわ」
リンの言葉と同時にドラゴンがフェルの周りをグルグルと回り誘導を始める。
俺は挨拶をしようとしたが、リンに止められた。
「龍族の長に一番に挨拶しないと不敬になるわ。彼らもその後じゃないと話してくれないしね」
俺はそんなものかと思いつつ、仲間たちと小声で話しながら進んで行く。
一番大きい岩山に辿り着き、そのふもとにある洞窟を抜け、大きな滝が流れ落ちる山頂に到達したのは1時間後の事であった。
メガロを一体のドラゴンが治療をできる場所に運んで行き、残るメンバーで龍王との謁見となった。
「龍王! ゼロ・ド・ノクス様!」
俺たちを誘導していたドラゴンたちが一斉に叫ぶと、滝つぼの水が疼き始める。
滝つぼの中から悠然と姿を現したのは白銀の身体に黒い鱗のラインが張り巡らされた圧倒的な存在感を放つドラゴン。
リンはもちろんの事、その圧倒的なまでの威圧に押され、俺やシュウスケまでいつの間にか跪いていた。
「そうかしこまる事は無いぞ。旅の者よ。むしろ礼を言わなければならないのはこちらの方なのだからな」
龍王は歩みを止めると、穏やかながらも腹の底に響くような声で俺たちに話しかける。
「おおよその状況は聞き及んでいる。その子・・・・・・今はミディであったな。ミディを助けてくれたこと心から礼を言う」
頭を下げる龍王を俺は慌てて止める。
「い、いえ! 私は自分が助けたいと思っただけなので、礼を言われるほどの事では・・・・・・」
慌てふためく俺に龍王は目だけを俺に向け告げる。
「そうもいかぬ。我らの次期龍王となるべき存在、私の息子の命を救ってもらったのだ。礼をしてもしきれるものではない」
え? 今なんて?
よく聞こえなかったなぁ。
えっと、この俺にベタベタしているミディが・・・・・・
りゅ、りゅ、りゅ、龍王の息子⁉
んでもって、次期龍王だって⁉
俺は事態が把握できず、皆を見る。
俺と同じで開いた口が塞がらないといった表情のシュウスケとコタロウ。
平静を装っているがミディをガン見していることで動揺が伝わってくるフェル。
面白いことが始まったと言わんばかりにニヤニヤと笑みがこぼれているバーン。
そして、『あれ?言ってなかったっけ?』みたいな顔をしているリン。
いや、聞いてねぇよ‼
俺ってば、次期龍王にミディなんてポップな名前付けちゃったんだよ?
龍王ならもっとバジュラとかヴァルキリアスとかカッチョイイ名前を付けてやんなきゃだったじゃん!
まぁ、ミディ自身が気に入ってんだから良いんだろうけどさ・・・・・・
「今日は疲れたであろう。色々と詳しい話は明日以降に時間を設けるとして、今日はゆるりと休まれよ」
龍王が動揺している俺たちを見て、気を使ってくれた・・・・・・のかは分からないがこの場は解散となった。
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