第三十九歩 【仕組まれた逃避行】
先程まで静まり返っていた通路は今や多くの騒めきに包まれていた。
俺とコタロウが手分けして多くの異界人の呪縛を解呪したことにより、自我を取り戻したのだ。
困惑の声が溢れる通路の中、類とコタロウはシュウスケ達と合流する。
「どうだった?」
俺の問いかけにシュウスケは首を横に振る。
「必死に探したんすけど、エリザさんは見つかんなかったっす・・・・・・」
肩を落とすシュウスケに周囲を回っていたメガロが声をかけた。
「おい、結構な数の奴らに聞いてきたがよ。こいつらロクなスキル持っていやがらねぇぞ!」
そう、俺もそれを気にしていた。
ここにいる異界人は持っているスキルが一様に戦闘向きではない。
それどころか、俺が転生するときに管理者に聞かされて「世界のビックリ人間じゃねぇんだよ‼」とツッコんでしまったレベルのものがほとんどだったのだ。
まさか、本当に首が回るというスキルだけでこの世界に来た奴がいるなんて思いもしなかったが・・・・・・いたんだなこれが。
「どうやらここにいる連中は一般的に使い物にならないって思われた奴らみたいだな! 塔の奥に転送用の魔方陣がありやがった。使えるって判断された奴らはそこからまたどこかに送られてんだろうなぁ」
「じゃ、じゃあエリザさんはその先に⁉ 早く行かないと‼」
「無理を言うな‼ ここに留まっているだけでも危険だというのに、そんなことをしている余裕があるとでも思っているのか⁉ それにだ、転送用の魔方陣はあの瓦礫の下にいる魔法使いでなければ発動できないようになっている。それよりもルイ! もう十分だろう! さっさと逃げるぞ!」
動き回る俺たちを制止しつつ、フェルが叫ぶ。
「そんな⁉ 俺はエリザさんを見つけるまで逃げないっすよ‼ 魔方陣だって何とかすれば動かせるはずっす‼」
「よく考えろ‼ お前の探している異界人は以前、お前を追って来た騎士たちと一緒にいたといっただろう! つまりだ、その異界人はどこかの組織の指揮系統に組み込まれている可能性が高い‼ 今、この魔方陣の先へ行っても無駄なのだ‼」
シュウスケとフェルが言い争っている間に俺とメガロ、バーンは塔の奥に進み、魔方陣を調べていた。
それはとある脱出法を思い付いたからに他ならない。
「んで? おしゃべりボーイはどうするつもりなんだい?」
「これは転送用の魔方陣なんだろ? なら、魔方陣に組み込まれた意図を読み取ることで術式を書き換えられないかと思ってさ。ほら、メガロは湖でやったのを覚えているだろう?」
「あぁ、あれは一方通行だったのを書き換えたんだったな。今度はどういう風に書き換えようってんだ?」
俺は魔方陣を凝視し、術式に浮かび上がる文字を読み解きながらメガロの問いに答える。
「行き先を変えるんだよ。ここにいる異界人達を全員、城の外へ連れ出すためにな‼」
「へぇー、なかなか突飛な事を考えるようになったじゃないかおしゃべりボーイは! やっぱり呪縛を解き放つと変わるものだねぇ」
バーンの感心を流し、俺は転送先を決定している術者の意図を探していく。
しばらくして、俺の目は一つの単語へ目が留まった。
「‼ これは・・・・・・〝異界人運用試験場〟⁉ これだ‼」
俺は行き先を決定している見つけ、指さす。
「バーン、ここの部分を書き換えられるか?」
「んあ? まぁ、書き換えるべきポイントが明確なら可能だけどさぁ。一体どんな意図を込めればいいんだい?」
「なるべく安全な所に転送したいんだ! バーンなら何処か良い場所を知っているんじゃないかと思って・・・・・・どうだ?」
俺が聞くと、バーンはしばらくくちばしの先を擦りながら考え込む。
「まぁ、異界人達に関してだったら一か所だけ心当たりがあるっちゃあるがねぇ。まぁ、やってみますかねぇ・・・・・・」
バーンはぶつぶつと独り言を言いながら魔方陣の前に立つと、翼の先に魔力を溜め込む。
その魔力を魔方陣内の俺が指示した部分に叩き込むと魔方陣の形が歪み、また正円に戻った。
「これで行き先は変わったぜ! 後は術者の魔力を流してやれば動かせるが・・・・・・それが問題なんじゃないのかい?」
「それなら大丈夫だ」
俺はバーンの言葉を聞き、左腕を見せる。
そこには先程、リフのパラライズを吸収した腕輪があった。
「この中にはあの魔術師の魔力が入っている。これを流せば魔方陣が動くんじゃないか?」
「そりゃご機嫌だね! 流れは完全に俺っちたちに向いてるってわけだ!」
俺は腕輪を魔方陣に近づけると魔方陣がわずかに光る。
これは俺たちの仮説が正しいことを証明していた。
「しかし、魔方陣を改ざんできるとはねぇ。実際、なかなか君のスキルは便利だねぇ。その後、自分じゃ何もできないのはどうしようもないけどさ」
褒めているのか貶しているのか分からないバーンの言葉はさておき、無事に起動した魔方陣を見て、俺はフェルたちの所へ戻る。
未だに言い争いをしている二人をいさめ、未だに混乱している異界人達を何とか魔方陣へと誘導していく。
魔方陣に乗せられるだけ乗せては魔方陣を起動するを繰り返していく。
この塔に閉じ込められていた異界人は100はくだらなかったが、魔方陣が比較的大きかったためそれほど時間が掛からずに転送は進んでいく。
「これで異界人さん達は全員逃げました‼ 次は僕達が行きますか?」
「シュウスケよ。エリザとやらの事は体勢を立て直してから考えようではないか。ここで我らが捕縛されれば救えるものも救えんぞ!」
「・・・・・・分かったっす。このまま粘ってもエリザさんがこの城内にいるとは限らないって事っすもんね」
「話は決まったかい? さっさとトンずらするとしましょうや! おしゃべりボーイ、頼むぜ!」
「よし、みんな魔方陣に‼」
俺たちは魔方陣に上がると転送術式を起動しようとした。
だがさっきまでとは違い、魔方陣はうんともすんとも言わない。
「ちょ、ちょっと。何で景色が変わらないんすか?」
「おい、ルイ! どうなっている?」
俺は何度も腕輪を魔方陣に押し付けるが、腕輪は光を失っていく。
「腕輪から魔力の匂いがしなくなりました。もしかして・・・・・・魔力切れって事は?」
「ま、マジかよ・・・・・・」
俺たちが焦っていると、部屋の中に笑い声が響いてくる。
「ふへへへへ! 世の中、そううまくは行かないさね! お前らはここから逃げることはできないんだよ‼」
その声と共に瓦礫が宙に浮き、ボロボロになったリフが姿を現す。
服装はボロボロになっているが、魔力は全く衰えていない。
「そして、仕上げさね!」
リフはそう言うとシュウスケを指さす。
リフがニヤリと笑った瞬間に赤い閃光が走り、シュウスケが呻き声と共に地面に倒れ伏した。
「うぐっぁぁ‼」
「シュウスケ‼」
俺が駆け寄ると、シュウスケの右肩には風穴があいており、そこから血が流れ出ていた。
「さぁ、次は誰かの頭を打ちぬこうかねぇ」
リフは指を振りながらえり好みする様に俺たちを見回す。
「こうなれば‼」
声が響いたかと思うと、俺はもふもふとした感覚に包まれる。
フェルが一気に巨大化し、全員を掬い上げ飛翔したのだ。
「強行突破だ‼ 天井を突き破り逃げるぞ‼」
フェルは猛スピードで空中を駆けあがると、天井を突き破る。
下を見るとリフは魔法を放つでもなく、ただ俺たちを見上げていた。
このままならば逃げられる‼
俺たちは誰もがそう確信していた。
しかし・・・・・・
「ようやく来たか。待っていたぞ」
天井を突き破った瞬間に一閃の斬撃がフェルを襲い、それを受け止めようとしたフェルから俺たちは振り落とされてしまう。
「あのリフがここまで条件を達成するのに手こずるとは、やはりあの異界人は危険な存在という訳ですか」
「俺たち、三人まで出張る必要はねぇかと思っていたんだがなぁ。久しぶりに骨のある仕事かも知んねぇな!」
「〝王権騎士団〟〝ミリアノス〟そして〝グラブ〟その総力を挙げて奴を確保せよ。これが王命だ。決して功を焦るなよ」
見覚えのある騎士と並び立つ、二人の人影。
その後ろには屈強な騎士やウィザードたちが居並ぶ。
そこで俺たちは初めて、今までの一連の流れが罠であることを悟ったのだった。
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