第三十八歩 【目覚める先導者 後編】

 部屋の中で魔力が満ちて収束していく。

 激昂したリフが放とうとしている魔法。

 その異様なまでに高まった魔力が振動となり部屋を揺らしているのだ。


「雷が鳴る前みたいな匂いがします!」


 コタロウが叫びぶと、それに呼応してバーンがリフの魔法を看破した。


「奴が放とうとしているのは〝パラライズ〟だ‼ それも特大の‼」


「やっぱりそのちっこいのは厄介だねぇ。でも、それが分かったところであんたらに抵抗レジストされるほどあたしの魔法は甘かないよ‼」


 リフが腕を前へ突き出すとその腕から雷光が迸る。


「これはヤバいっすよ‼ フェルさん達はまだなんすか?」


「近くまでは来てるんだがなぁ・・・・・・残念ながら時間切れって感じだな」


 バーンがそう呟いた瞬間、リフの腕から黄金の電撃が放たれた。

 その電撃は複数に分かれ、収束する様に俺たちへと躍りかかる。


「安心しな‼ 次に目覚める頃にはあんたらは今度こそ王の忠実なる駒となっているんだからねぇ‼」


 その声が耳に届くか届かないかという間に俺たちの視界は黄金に染まる。


「チクショウ‼」


 一番先に電撃が到達したのは奴らの一番の目的である俺。

 俺は電撃から逃れることが出来ず、咄嗟に左腕で頭を庇った。

 閃光・・・・・・一瞬の静寂の後に、俺は身体を走るはずの痛みが無いことに気付く。


「あ、あれ?」


 俺が恐る恐る目を開けると、未だに電撃は目の前を走っている。

 しかし、不思議な事に電撃は俺の身体には当たらず、俺の左手首にある金具に吸い込まれていく。


「な、これは?」


 それはランズさんに貰った腕輪だった。

 そう言えば、魔法を溜めておけるとか言っていたような気がするが、まさかこんな状況で役に立つとは・・・・・・

 どうすれば使えるとか全く聞いていなかったから・・・・・・というより純粋に忘れていたんだが、何ともジャストタイミングである。

 俺がとやかく考えている間に腕輪は放たれた電撃を残らず吸い尽くす。

 辺りから閃光が引くと俺の後ろで目を閉じていた仲間も目を開け、状況が理解できないといった顔をしていた。

 そしてそれは相手も同じ事。


「な、何なんだい? 一体、何をしたっていうんだい⁉」


 リフは絶対的な自信を持って放った魔法が掻き消され、流石に動揺しているようだった。

 そんなリフにはさらなる不幸が重なることとなる。


「無事かぁ? テメェらぁ‼」


 その大きな声とともに壁を突き破り突入してきたのは巨大化したフェルとメガロ。

 メガロ達が突き破った瓦礫はそのままリフに向かって降り注いだ。


「な、何だっていうんだぃぃぃ‼」


 リフはその断末魔と共に瓦礫に埋もれてしまった。


「おぉ、無事の様で安心したぜ‼」


「フン、命だけは拾ったようで何よりだな。今回も貴様のせいでどれだけ苦労させられたか」


「相変わらず手厳しいなフェルは・・・・・・とにかく逃げるとしようか」


 フェルのいつもの小言も何だか懐かしく感じるが、今はしみじみしている余裕はない。

 早くここから逃げ出さないと追手がすぐにでも来るだろう。


「ま、待って下さい! その前に俺にはやるべきことがあるっす!」


 唐突にシュウスケが言葉を発し、俺たちはシュウスケの方を見る。


「この通路には多くの異界人達が囚われているっす! きっとその中に・・・・・・」


「そうか! オメェが惚れている女がいるかもしれねぇんだな‼」


 メガロが人間大に戻りながら言った。


「ここは異界人が囚われているところなのか⁉ でも、どうやって異界人達を開放する?」


「その事なら心配いりませんよ! とっておきの方法がありますから‼」


 俺の質問にコタロウが自信満々に答えた。


「貴様ら、いい加減にしろ‼ あの化け物じみた騎士たちがいつ現れるともしれぬ状況で、これ以上ここに留まるなど愚策中の愚策‼ さっさと逃げるのだ‼」


「このまま尻尾巻いて逃げたら何のために命かけてまでこんなとこまで来たか分かんねぇじゃねぇか! さっさとやることやっちまおうぜ!」


 フェルの反対意見をメガロが一蹴し、俺たちは通路に向かって走り出す。

 その途中でコタロウが俺の救出までの経緯ととっておきの方法を話してくれた。



~ ルイ救出作戦開始前 ~


 ルイを除く、仲間たちはメガロの言葉に耳を傾けていた。


「ルイがいねぇのにシュウスケと言葉が通じるってこたぁよ、この中の誰かがルイの〝言語理解〟の権能を持っているって事じゃあねぇか?」


「少なくとも俺っちじゃあないね! 俺は分身体が奴の近くにいないとそんな芸当はできないよ」


「メガロと会った村では俺とフェルさんは会話できなかった・・・・・・という事は俺たちでもないってことっすよね?」


 そう口々に言った後、仲間たちの視線は一点に集中した。


「え? ぼ、僕ですか?」

 その視線の先にいたのはコタロウだ。


「確かに・・・・・・コタロウがいた時はルイがいなくても会話が成立していたな」


「なぁなぁ、黒毛玉君。君は自分のスキルって呼びだしたことあるかい?」


「え、いや、無いですけど・・・・・・僕には魔力の匂いを嗅ぎ分けるってものじゃないんですか?」


「とりあえずやってみなよ。なにか糸口になるかもしれないしさ!」


 バーンに促され、コタロウが目を閉じ自分のスキルを呼び出す。


〈特殊嗅覚〉Lv.1

 基本権能:嗅覚強化(Lv.1) 魔香感知(Lv.1)

 追加権能:なし


〈共有〉Lv.2

 基本権能:スキル権能共有(Lv.1~Lv.2)

 追加権能:共有対象拡大


 二つのスキルが浮かび上がったことにコタロウは驚く。


「え? スキルって一人一つじゃないんですか? 2つ出ちゃってますけど?」


 それを聞いた瞬間、フェル、メガロ、バーンの顔色が変わる。


「んで? どんなスキルだったんだ? ルイと同じ〝言語理解〟だっただろう?」


「そ、それが・・・・・・」


 コタロウはスキル〝共有〟の権能について仲間たちに話した。


「なんてこった・・・・・・思った以上にヤバいスキルかもなそれ!」


「そのスキルがルイの〝言語理解〟を我らに共有しているのだろうな。これならば・・・・・・バーン。試してみよう」


 フェルがそう言うとバーンは頷き、シュウスケの方に向き直ると手招きをする。


「な、なんすか?」


「いいから屈め! 黒毛玉君が目を覗き込めるようにな!」


 コタロウはバーンに促され、シュウスケの瞳を覗き込むのだった。

 

 ※

 そうしてコタロウは見事にシュウスケに残っていた呪縛を解き、今に至るという。


「つまり、スキルをみんなに共有して一斉に解呪を進めれば、短時間で大勢の解呪ができるっていう事か?」


「いえ、僕が皆さんに共有できる権能はスキルの一番基本的なものだけみたいです。僕自身はある程度の権能を受けられるみたいですが・・・・・・だから、解呪はルイさんと僕で行おうと思います!」


「よし、出来るだけやってみるか‼ シュウスケはその間にこの中から目的の人を見つけ出すんだ‼」


「了解っす! 絶対見つけてやるっす!」


 俺たちはそれぞれの目的を果たすために通路を進んでいった。

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