第三十七歩 【呪縛と操り人形】
コタロウはシュウスケと共に狭い壁の隙間を進んでいた。
二人が目指しているのは王宮の中心。
ランズの部屋で聞いた話では異界人の研究が行われている場所は王宮の本殿にあり、重要なスキルを持った異界人が集められているそうだ。
「ルイさん、いるっすかね?」
「ここの人たちはルイさんのスキルが〝魔獣の使役〟だと勘違いしています。だから、絶対にルイさんを重要な異界人として扱うはず! そうでなければ、あれだけの勢力を投入して僕たちを追い詰めることは無いと思います!」
シュウスケはキッパリと言い切ったコタロウに感心しながら、後に付いていく。
コタロウは鼻をしきりに動かしながら壁の切れ間から顔を出した。
「方向はこっちで会っているはずです。後は……」
ドン‼
大きな地響きが辺りを駆け巡る。
それと同時にバーンの分身体が上空から下りてくる。
「こっちは始まったぜ! 俺たちが兵どもを引き付けている間にさっさとルイの所まで突っ走りやがれよ!」
「ありがとうございます。バーンさん達も無理はしないでくださいね!」
コタロウはバーンの分身体にそう告げるとシュウスケを連れ、王宮の中心へ向かった。
※
石造りの壁に囲まれた通路。
そこにはいくつもの鉄格子で区切られた部屋があり、目から光を失った多くの人がただ、同じ方向を見つめ立っている。
兵の大半はフェルたちの対処へと向かっており、通路を守っていた番兵はバーンの分身体が持っていた睡眠薬を使って眠らせた。
しかし、それ以前にこの塔を守る番兵の数が異様に少なかったのだ。
「番兵はこれだけか。なんか妙っすね……」
「ここまで来たら考えてもしょうがないって! 今は一般兵どもしか来てないから良いが、幹部たちが来たら俺たちの陽動も長くは持たねぇ!」
いつもの飄々した態度とは違い、少し焦った口調で急かすバーンにコタロウ達は頷き、奥へと歩を進める。
「やっぱり来たかい。一番手頃な奴が来てくれると思っていたよ!」
辺りに声が響き、コタロウ達は警戒態勢に入った。
周囲のたいまつに火が一斉に灯り、辺りが明るくなるとさっきまでの通路とは違い、少し開けた場所だという事が分かる。
そして、フロアの中心には一人の老婆が立っている。
「丁度、準備が整ったところさね。早速だが、あの異界人のスキルを溜めさせてもらうとするかねぇ」
老婆は怪しい笑みを浮かべるとフロアの奥に向かって手招きをした。
「異界人って……まさか?」
奥の暗がりから姿を現した一人の男はゆっくりとフロアの中心に進み出て、老婆の前へと出る。
「ル、ルイさん‼」
そう、フロアに現れたのは紛れもなくルイであった。
しかし、その左目からは光が失われ、右目は怪しく紫に光っている。
「「ルイさん‼」」
コタロウとシュウスケがいくら叫ぼうとルイは反応しない。
ただ、人形の様に老婆とコタロウ達との間に立ち塞がっているだけだった。
「やっぱり支配魔法を掛けられちまったのか……って事はそこのババァは有名な宮廷魔法使いのリフ・エル・ミラノスってわけかい」
バーンは老婆を睨みつける。
そんなバーンを一瞥し、リフは更に笑みを深める。
「フェニックスがいたという報告は聞いていたが、まさか本物とはしかも人語を操れるとは恐れ入ったよ。さすがに不死の存在だけはあるといったところかい? あんたを手中に収められるだけでも十分すぎるけど、ここが終わったら今、城内でヤンチャしているあの魔物どもにも会いに行かなきゃならないからねぇ。手短に済ませてもらうとするよ。そのためには……」
リフは手を前へかざし、シュウスケを見つめる。
「一体、何をするつもりですか?」
「何、逃げ出した人形を元に戻すだけさね!」
リフが手の中で魔力を収束し、シュウスケに向けて放つ。
放たれた魔力弾は目にも止まらぬ速さでシュウスケに直撃し、シュウスケは黒い魔力の靄に包まれた。
「うぐあぁっぁぁぁ‼」
シュウスケはそのまま頭を抱えてその場に蹲り、もがきだした。
「シュウスケさん‼」
「モブボーイ、しっかりしろ!」
コタロウ達が駆け寄ろうとした時、シュウスケは音もなく立ち上がった。
「さぁ、小僧。その二体の魔物を捕まえな!」
リフが指示すると、シュウスケは駆け寄ってきたコタロウとバーンを手で押さえつけてしまった。
「ど、どうしてしまったんですか? シュウスケさん‼」
コタロウが叫んでもルイと同じようにシュウスケに反応は無い。
「無駄さね。そいつも元々はここで管理していた異界人の一人。自我を戻して逃げたとしても支配魔法が残っている限り、私が直接魔力を流し込めばすぐに私の意のままに操れる」
リフはコタロウ達が動けない事を確認すると、ルイを引き連れゆっくりと近づいていく。
「さて、早速だがお前がこの魔物たちを使役する様を見せてもらおうかねぇ!」
リフが指示し、ルイがコタロウ達の前へ進み出る。
「ル、ルイさん!」
「さぁ、さっさとおしよ! 次があるんだ。ここにあまり時間をかけていらん無いんだよ! その二体を私の指示に従うようにしな!」
ルイはコタロウ達の前へ立ち、いつもとは違う冷たい目で二体を見下ろす。
「オレ がメイじる……リフサ マのメイレイにシタ ガえ!」
ルイは口を開き、たどたどしい言葉でそう告げる。
勿論、その命令がコタロウ達に効くはずもなく、何も起こりはしなかったがその言葉はコタロウを激昂させた。
「ル、ルイさんは絶対にそんなこと言わない‼ 僕たちは友達だ‼ ルイさんは友達に命令するような人じゃない‼」
そんな言葉もリフの耳にはただ動物が鳴いているとしか捉えられない。
「キャンキャンと、どうやらまだ使役できていないみたいだねぇ。何か必要な要素があるのか……」
「おい、俺っちが重要な事を教えてやってもいいぜ‼」
リフが思案に暮れているとその耳に軽い声が届く。
それはバーンの声だった。
「そいつのスキルを俺っちはよく知っている。その秘密を教えてやってもいいぜ! その代わりと言っては何だが、俺っちだけは自由の身にしてくれないかな?」
押さえつけられているバーンはリフに向けて語り掛ける。
そんなバーンをコタロウは疑心の目で見つめていた。
「バ、バーンさん! 何を⁉」
「ほう、仲間を売るって事かい?」
「そもそも、俺は悠久の時を生きるフェニックス様だぜ? 一時の仲間なんかより、自分の自由が大事に決まってんじゃねぇかよい!」
バーンの取引に少し悩んだ様子を見せたリフ。
そこにバーンが畳み掛ける。
「俺が見ても残り二体の奴らはかなりの実力を持っている。時間が掛かれば城内にどんな被害が出るか分からないぜぇ?」
「うぬぅ、良かろう。貴様の自由の身にする事は王に提言してやろう。さぁ、秘密を教えるのだ!」
「よっしゃ! 交渉成立だな! ってことで、悪く思うなよ黒わんこちゃん。あそこで素直に撤退しなかったお前らが悪いんだからな!」
バーンはコタロウに向けて翼を合わせ、おどけて見せた。
「バーンさん‼ あなたという人は‼」
「俺っちは人じゃなくて不死鳥だ。怨むなら力のない自分を怨みなよ!」
シュウスケの拘束から解放されたバーンはリフの肩に止まり、何かを耳打ちした。
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