けものみち 2本目 集いの道

第十三歩 【荒野と魔法】

 果てしなく広がる荒野の真ん中に流れる大河。

 俺たちはその岸辺に腰を下ろし、ずぶ濡れのままガタガタと震えていた。


「一体、何が起きたっていうんだ? なんでいきなり河にダイブしてんだよ?」


 俺はガタガタと震えながらミニサイズでコタロウと並んでいるフェルを見る。

 フェルの背に乗り、王都へ向かっていた俺たちだったが、この荒野の上を通過中にどんどんフェルのサイズが縮んでいった。

 その結果、フロートの魔法が維持できなくなり、何とか方向を修正しつつ河に落下し、現在に至るわけだ。


「キュイ、キュイ!」


 唯一、落下を免れた子龍は元気に辺りを飛び回っている。


「うむぅ、前の森で完全に解いたと思っていた呪いが再発したようだ。我の魔力を吸い続けている」


「えっ⁉ それって大丈夫なんですか?」


「案ずるなコタロウ。ただ魔法を行使できないというだけだ。生命力を吸う呪いでなくて助かったがな」


「魔法が行使できないのか……それじゃ火を起こして服や毛皮を乾かすこともできないか?」


「うむぅ……ん? そうか、その手があったか!」


 フェルは何かを思いついたようで俺を連れ、少し離れた場所に移動した。


「一体どうするつもりだ?」


「簡単なことよ。お前に魔法の使い方を教えてやる」


 え? なんだって?

 俺が魔法? そんなもの俺に使えんの?


「案ずるな! 我の見たところお前の魔力量はそれほど悪くない。あとはイメージさえ定着すれば魔法が行使できるはずだ」


「いやぁ、でもさ……」


「いいから早くしろ‼ 我もコタロウも寒くてたまらんのだ‼」


 という流れから、フェルから魔法のレッスンを受けることとなった。

 まぁ、これからも魔法は使えた方が何かと便利だし、もし強力な魔法が使えたりしたら俺もまともに戦えるようになるかもしれない!


「よし! まずは何をすればいいんだ?」


「手を突き出し、手掌を空に向けろ。その上に力を収束させるようなイメージを抱くんだ」


 俺はフェルの言うように意識を集中させる。

 すると、体内に今までで感じたことのない流れが手のひらの上に集まるのを感じた。


「その力を炎に変えるようにイメージしろ。ただし、見たことがある程度の炎の方がいいぞ」


 見たことのある炎……ライターくらいかな?

 俺はライターの火をなるべく具体的にイメージする。


「よし! 目を開けてみろ!」


 フェルの声がし、俺は目を開ける。

 すると、人差し指の上に本当にライターの様な火が揺らいでいた。


「で、出た! 出たぞフェル‼」


 俺は魔法を行使できたことに興奮し、フェルを見る。

 しかし、俺を見るフェルの目は冷たい。


「あれだけ魔力を収束しておいてその程度の炎か……まぁいいだろう」


 その後、他の属性攻撃魔法も試したが、規模的には全く変わりなかった。

 フェルによると俺の攻撃魔法に対する魔力のコスパは著しく悪いらしい。

 それはイメージや本質的な攻撃性の違いらしいが、とにかく使い物になるものではないようだ。

 相変わらず酷い話である。


「まぁ、薪に火をつけるくらいはできるだろう。我とコタロウで周りの木を集めてきてやるから、お前はスムーズに魔法が行使できるように練習しておけ! 魔法は他に移動魔法、治癒魔法、強化魔法と別れているが、基本は全部一緒だ!」


 フェルはそう言い残すとコタロウを引き連れて川岸を離れていった。

 練習って言われてもなぁ。


「キューイ?」


 子龍が俺の顔を覗き込み、首をかしげる。

 そういえばこいつの言葉ってあのボコボコにされた時以外聞こえないんだよな。

 あの時もたどたどしい聞こえ方だったし、まだ幼いからなのだろうか?


「キュイ?」


「あ、そういえばお前の名前まだ考えてなかったな!」


 いつまでも子龍やお前じゃあ可哀そうだしな。

 う~ん、そうだな何がいいだろうか?

 俺が苦心していると退屈したのか、子龍もフェルたちを追いかけて行ってしまった。

 まぁ、考えを巡らすには一人がいい時もあるしな。

 えぇと、子龍、ミニドラ……ミディ!

 うん、いい名前だと思う。

 皆が帰ってきたら教えてやろう。


「さてと! フェルに言われた通りに魔法の練習でもしておきますかねぇ」


 俺がようやく重い腰を上げたその時だった。


「動くな!」


 その声とともに俺の天地が逆転し、地面に叩きつけられた。

 俺がゆっくりと目を開けると首元に剣が突き付けられている。

 そしてその剣を辿ると……女の子?

 美しい長髪を振り乱し、深紅の瞳で俺を睨みつける美しい女性。

 俺は状況が理解できずに彼女を見ることしかできない。

 ようやく頭の整理がつき始め、言葉を発しようとした時俺は再び絶句した。

 振り乱れていた髪の中から現れたものが告げていたのは彼女が人間ではないという事実。

 そこにあったのは頭の両側方から伸びる二本の角。

 この瞬間が、俺のけものみちでどれだけ大きな意味を持つことになるか知るのはまだ先の話なのである。

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