あの時の日常

たのむす

snow

『昨日から降り続く雪で今日はホワイトクリスマスとなるでしょう』

テレビ画面の中の女性キャスターが楽しそうに語っているのを聞きつつ、いつものように出勤の準備をする。

いや、"いつものように"はできていなかった。

靴下を左右反対に履いてしまったり、ズボンのベルトを通す穴を1つ通し忘れたり…

それほどに今日という日はいつも通りにはいかない特別な日だ。

「じゃあ、行ってくるよ」

熱心に朝のニュース番組を見ている真夏に向かって声をかけると、

「いってらっしゃい!寒いから暖かくして行ってね!」

と聴いているこっちまで元気になるような声が返ってくる。

玄関の扉を開けて外に出るとコートを着ていても少し寒いくらいの風とちらつく雪が体にまとわりつく。

(今日は早く帰ってこないとな)

そんなことを考えながら会社へと向かう…


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


彼を見送ってから、つけっぱなしだったテレビに視線を戻す。

さっきのキャスターがまだ画面の向こうで話していた。

『ところにより大雪となるので夜は注意が必要です』

(夜なら、、大丈夫か…)

そんなことを思いながらテレビを消す。

今日は私も頑張る日だ、、

今までのクリスマスは、レストランでのディナーなど無難な過ごし方だった。

でも、今年は初めて一つ屋根の下で過ごすクリスマス。

ある意味、普段のデートよりも余計に気合が入ってしまう。

家で過ごすからといって適当な格好でいるわけにはいかないし、料理だっていつも以上に手の込んだものを作らなきゃいけない。

(私は私で頑張らなきゃ!)

気合を入れなおしてまずは朝食の片付け、ささっと終わらせて掃除をいつも以上に丁寧に。

ひと通り家事が終わったところで私も出かける準備をする。

まずは予約していた美容院だ。最近行けてなかったから、少し伸びた髪カットして整えてもらわなきゃだ。

家を出て、すでに人の溢れた街を目的地に向かって歩く。行きつけの美容院は少し遠いが今日のことや周りの人の話す声を聞いているとあっという間に着いてしまった。


しばらくして美容院を出てきて、窓を鏡がわりにして仕上がった髪をみると、自分でも見違えるほど綺麗になっていた。

仕上がりに満足したところで、そこからディナーのための食材をショッピングモールまで会いにいく。

切って少し軽くなった髪と同じように、綺麗になった自分に足取りも軽くなる。

モールに着いて、ある程度作る料理も決めて買い物をする。


買い物も終わり、両手にパンパンの買い物袋を持って最後の目的地に向かう。

これは彼には秘密の私からのサプライズ

喜んでくれるといいな…


最後の買い物も済ませ、家へと帰る。

(さっ、すぐに作りはじめないと出来上がらないな〜)

家に着いた途端キッチンへ向かい仕込みを始める。

彼への愛情が今日の料理の隠し味!

なんてクサイことを考えながら調理していく。

、、、、ある程度料理も完成して彼の帰りを待っているとスマホに通知が届く……


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(やべーな、これ定時で終われるか?

 早く終わらせて帰らなきゃ)

せわしなくキーボードを打ちながら時計を見る。

せっかくのクリスマスなのに、こんな日に限って上司は大量の仕事を持ってくる。

イライラしながらもなんとか終了に近づいていた。

ふと外を見ると、雪が降るとは言っていたがまさかここまで…と思うくらいの大雪が降っていた。

(電車止まらないでくれよ…)

そんな願いとは裏腹に雪は止む気配がない。


なんとか仕事を終わらせて、会社を出る。

急いで帰らないといけないが足は駅から少し離れた場所へと向かう。

真夏へのプレゼントを買うために…

そこへ向かう途中真夏にLINEを送る

[ごめん、電車が止まったから帰るの遅くなる…]

さっきニュースを見たが、電車は幸い止まってないらしい。

まあ、その場しのぎの嘘ってやつだ。

なんとかプレゼントを買って急いで家へと帰る…


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(まだかな〜…)

窓から外を眺めながら彼の帰りを待つ。

…すると、やっと彼の姿が見えた。

玄関に行き、ドアを開ける。

「おかえり!遅いよ〜!」

「ごめんごめん、ただいま」

彼の荷物を受け取ろうとすると、手に白い箱を持っていた

「それって、もしかして、、ケーキ?」

「そうだよ、真夏の好きなショートケーキ買ってきよ!」

「えっ、嘘…!私もショートケーキ買ってきてるんだけど…」

「えっ、、」

しばらく2人の間で沈黙が流れたあと、どちらからともなく笑いだす

「もう、買ってくるなら先に言ってよ〜!」

「真夏こそなんで買ってくるんだよ笑」

2人で笑い止むまで笑い合って、やっと落ち着いたところで、

「ねっ、ご飯食べよ!

 今日は腕によりをかけて作ったからね!」

と声をかける


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

その日食べた真夏のご飯は今までのどんな食事よりも、幸せで、美味しかった。

お酒も進み、2人ともいい感じに酔ってきた頃、思い出したように鞄の中から細長い箱を取り出す。

「真夏、これ俺からのプレゼント」

「えっ、、嬉しい!ありがとう!」

真夏が箱を開けるとそこにはキラキラと輝くネックレスが。

「ねぇ、ネックレス私につけてよ」

「しょうがないな、ほら背中向けて」

そうして真夏の首にネックレスをつける

そしてこっちを向いた真夏が

「ありがとう!大事にするね!」

と言って抱きついてくる。

「喜んでくれたよかったよ」

そう言って俺も抱きしめ返す。


本当に真夏に出会えてよかった

眠りにつく瞬間までそう思っていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「知ってるよ、電車が止まってなかったこと

 そんなに気を使わないでいいんだよ、、

 て、もう寝てるか…

 あと、これも知ってるよ。

 ずっと渡すタイミングが見つからない婚約指輪とプロポーズの言葉が、あなたの部屋の机の中にあることも、、

 ずっと待ってるんだよ」


「おやすみ」








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