第9話

 昼頃になって、漸く解放された。立ち去る際に見かけた人達は一様に慌てていて、ジーン、引いてはアルグレイ領がもたらした研究成果が、如何様なモノであるかがわかり、誇らしい気分になれた。



 学園に戻ってきて、今日はもう既に護衛達の訓練はお休みになっていたのでお嬢達と共に昼食を摂り、そのまま授業に出た。

 授業は魔法訓練施設で行う魔法発動の訓練だった。

「マックス、久々に的になってくださいませ」

「任されました」

授業が始まると、的に見立てた藁人形に生徒達が一斉に魔法を発動させ始める。そんな中でお嬢は何食わぬ顔で俺に近づき、そんなことを言う。俺は二つ返事で了承し、ついでだからとジーンも誘うことにした。

「お嬢一人だと張り合い無いからな。ジーン、お前も一緒にどうだ?」

「あら?面白そうね」

俺の申し出に、含みのある笑みを見せながら答えるジーン。その間に、お嬢は教官に許可を取りに行っていたようだが、その教官が一心に的へ魔法を発動させ続けている生徒を止めた。

「マックス、すみません。クラスメイトに、アルグレイ流の訓練を見せて欲しいとのことで」

「・・・・・・まぁ、良いのでは無いでしょうか。俺からしたら訓練ですし」

良いながら、俺は生徒の居ない場所に魔法で線を書いていく。一陣営二本。合計四本だ。

 用意ができたら二本の線の内側に入る。向こうも同じだ。

「最初はボール。威力は十で固定です。最初は小手調べで属性も言います。では、よろしくお願いしますわ」

「僭越ながら、お相手致します」

「お供させていただきます」

ルールの確認後、お嬢、俺、ジーンの順で礼をし、対峙する。

「木」「火」

一言だけ紡ぎ、二人はどこからともなく球の発光体を俺に向けて放ってくる。小手調べだから避ける訳にも行かないし、たかだか十程度の威力なので避ける必要もない。緑に発光する球の射線には緑の板を、赤に発光する球の射線には赤の板を魔力で作り出して射線を塞ぐ。

 光球は、一度ひしゃげてから己の変形に耐えられなくなり弾け飛んだ。

 何をしているのかというと、威力十の光球に硬さ十の板で迎え撃ち相殺する。丁度威力と硬さ、それから属性の均衡がとれると両方とも消滅する事を利用したちょっとした遊びだ。

 光球の術者は魔法の発動と魔力操作を訓練でき、的になった者は魔法の発動、操作、それからステップが上がれば魔法の威力と属性を見極める目を養える。

「風」「水」

それを見届けてから、お嬢とジーンは次の光球を作り出して放ってくる。今度は空色の光球と真っ青な光球だ。

「水、金」「土、闇」

同じ様にやり過ごすと、今度は四つの光球が飛んできた。・・・・・・闇は苦手なんだが。

 闇の板を精製するのに少し手間取るが、これも結果だけ見れば他と遜色なく作り出して全ての光球を弾く。

「では、次のステップへーー」

「お嬢、光属性が残ってますよ。苦手なのは分かりますが慣れないとダメです」

平然と次の段階へ進もうとするお嬢をたしなめ、手を上に向けてクイクイと曲げる。その様子にイラッと来たのか無言で白い発光球を浮かび上がらせすぐさま放ってきた。

「発動までは大分短縮できるようになりましたね」

今まで瞬きの間に一個作るのが精一杯だった白の光球を、一発ではあるが即座に放ってきたので素直に誉める。あの調子が続くのなら瞬きの間に四発はいけるかもしれない。

 しかし、お嬢は表情を変えずに赤くなっただけだった。・・・・・・誉め方間違えたか?

「では、次のステップ行きますよ。ボール、十固定は変わらず、属性は言いません。二十耐えてくださいませ」

言うが早いか、色とりどりの発光球が乱れ飛ぶ。数えてみたら八十有った。

 それぞれの発光球と同じ色の板を作り出し、その尽くの射線上に配置させて弾けさせる。

「おい、八十有ったぞ」

「片手で二十ですわ」

「だと思ったよ」

速度は出ていないので対処は容易い。それでは難易度が低いと判断されたのだろう。

「では、次のステップです。ルールはそのまま。光球の速度を今までのを一とし、次からは二にします。両手で二十。耐えてくださいませ」

またも言うが早いか、色とりどりの光球が乱れ飛ぶ。先程よりは断然早いが、それでも目で追えない速度ではない。

 きっちり、四十で光球が無くなった。まだまだ余裕がある。

「では、次のステップです。ーーと、言いたいところですが、飽きましたわ。適当にやりますので対処をお願いしますわ。避けても構いません」

「そろそろだと思いましたよ。俺も面倒だと思い始めて居ましたしね」

売り言葉に買い言葉というのだろうか。そのやり取りを境に、雰囲気が変わる。

「ルール変更。何でもあり。マックスの身体に魔法が当たれば私達の勝ち。あなたの勝ちは、私達の魔力切れか、六百拍(一拍約一秒)の時間が経つ事。宜しいですわね」

「線は越えても負けにならないな?」

「当然ですわ」

「ならば文句はない。生徒に結界を張っておく。・・・・・・これでよし。教官殿、できるだけ動かないようにお願いします」

多少、互いの思い描くルールのすり合わせを行い固まって見学している教官を含めた生徒達に全力で結界を張り、準備を整える。結界に半分くらい魔力を持って行かれたが、六百拍だ。何とかなるだろう。

「では、始めましょう」

そう言うと、お嬢は見せつけるように光球を十数個浮かび上がらせジーンもそれに続く。

 放たれた光球は、そのどれも速度が違うし、減速するもの、加速するもの、左右に揺れながら迫るもの、上下左右に弧を描くものと様々だ。それに、放った側から新しい光球を作り出して放ってくる。

 第一陣は、板で対処するのも面倒なので左に跳んでやり過ごした。俺が立っていたところに立て続けに光球が着弾し、土ぼこりを巻き上げる。

 数個は地面に着弾しなかったのか俺を追ってきたが、これには板を使って対処し、追加で迫る新しい光球に集中した。

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