第4話

 入学して一週間が経った。入学早々のレクリエーションは何をやるのかと疑問に思っていたら、まず始めにやったのは身体測定+アルファだった。それによって近いもの同士のクラス分けがされるらしい。

 お嬢はB判定だった。よってBクラスの配属となり、ちょうど仲良くなっていた四人全員がBクラスだった。

「ウィンベルがBクラスとは意外だな」

「あー、なにそれー?あたしだって大商家の娘なんですー。多少の知識ぐらいあるんだからねー?」

お嬢と一緒のクラスになって嬉しいのか挨拶代わりにお嬢とハイタッチした後、俺が漏らした言葉が癪に障ったのか咎めるように睨みつけてきた。

「それよりもお嬢がBの方が驚きなんだけど?お嬢なら普通Aじゃ内の?」

続ける疑問に、お嬢はフッフッフと不敵な笑みを浮かべる。

「六十点になるように設問に答え、後は白紙で提出してやりましたわ!それに、私の権力を使い、私の採点だけは厳正にしろと通達もしてやりましたわ!」

まさに悪役!と、自分のしでかした事を高らかに誇り、自慢気に言い募るお嬢。やる事がみみっちい。

 しかもその手には自分の答案用紙があり、全てが六十と記載されている。

 まぁ、こうやって楽しまれているのだからそれはそれでいいか。


 次に行われたのは学園内の各施設の案内だった。それを見てすぐに思ったことは、古臭い。その一点だった。それこそ各種設備は揃っている。

 教室に講堂、図書館に魔法訓練施設、団体教練場に野外学習用の雑木林に野外運動場。御貴族様向けには草花の庭園やちょっとした池まである。ただ、デザインが古臭い。

 五年に一度は全面改修が施されるレディグレイ領の学園と比べるとやたらでかいだけの敷地に見えてしまう。上級学生の授業風景を見せてもらったのだが、その内容もたかがしれているレベル。

 しかしながら、目を見張るモノも確かにあった。魔法学や騎士学はレディグレイ領では研究をしていないため、やはりこの学園の方が最新式を教えているし、魔道具制作は一度で良いからぜひ体験してみたいと思う。

 お嬢が目を輝かせたのは魔法学と魔道具制作の授業だった。そう言えば、最近お嬢は魔法にご執心で、どうにか一般教養にねじ込めないかと知恵を振り絞る姿を何度かお見かけしたことがあるが、それが原因かもしれない。

 身体測定の時も、魔力判定に用いた道具を興味深そうに眺めていたのも記憶に新しい。

 もう一つ、お嬢が注目したのは全く別の所。毎朝毎夕利用する食堂だ。まだメニューにある料理を制覇中だが、知らない味に触れるたび、料理人に詳しいレシピを聞き出そうとしている。聞き出す度に高い香辛料が使われているのを知って肩を落としても居た。


 学園の施設紹介が終わると、今度は魔法訓練施設に行って何がどれだけできるかを自己紹介と共に披露することになった。

 己の最大火力を見せつける者。

 どれだけ細緻に魔力を操作できるかと自慢する者。

 複数の魔法を同時に操ってみせる者。

 一つの魔法を多重展開させてみせる者。

 一芸に秀でた者がBクラスには集まった様だ。その中でお嬢は、完全に手を抜いた。しかも偽名を使い、正体を隠してだ。

 何も言われなかったのは、クラス決めの時の事を考えると、また権力を持ち込んだのかもしれない。

 お嬢は偽名として、アレクシア=クライツと名乗っていた。そして、披露したのは普通に見ているだけでは初級魔法の火の玉を一つ出す程度。

 詳しく見るとそこに生じている魔力の密度と真球の度合いが異常と言うもの。威力で言えば上級魔法を遥かに凌駕するが、そこまで見れる者はここには居なかった。

 手軽にポンと出された者に注意を払うものなど多くはいまい。

 マシュー様はお嬢の披露した特殊な魔法に気付いたのか、対抗するように火の玉を一つ出すだけだった。

 詳しく見ると、炎を糸のように細長くし、球状の範囲を途方もない速度で回して火の玉と見せる非常に精緻な技巧を凝らしたモノだった。

 マシュー様が戻ってくるとお嬢と手を取り合い、凄い凄いと互いを誉めあっていて、クラスメイト達から胡乱な視線を投げかけられていた。


 魔法の披露が終わって次の日は、団体教練場に行って今一度クラスメイトが見ている前で教官と一対一の試合形式の模擬戦が行われた。クラスは三十人。十二歳にしては中々の戦い方をする。

 驚いたのは、女子の中でもそれなりに場数を踏んでいそうな者達が多そうな事だろうか。

 お嬢はわざと隙を作って打ち込ませるなどしていて教官殿に青筋を立てられていたが、マシュー様は教官殿と実力が伯仲。ウィンベルは教官殿を体力が続く限り素早さで圧倒していた。

 そんな中でも異彩を放っていたのは、お嬢が仲良しになった友人の一人、レーニャだ。自分から手を出すことはないが、教官の放つ斬撃を数瞬前に差し出した木刀で受け止める。あるいは、教官が打ち出す前に木刀でその攻撃を防ぐと言った世にも珍しい光景が幾度となく起こった。決して偶然などではない。

 普段はおっとりとした所作の彼女の意外な一面を見た心境だ。


 次の日はBクラスに割り当てられた教室で、係や委員会の人員を選出した。

 お嬢とマシュー様、パトリシア様、サキ、ウィンベル、レーニャの仲良し組は揃って清掃委員に立候補したが、定員は二名との事でお嬢とマシュー様が清掃委員になられた。パトリシア様とウィンベルは飼育委員、サキとレーニャはお花係という物になっていた。

 子爵家と伯爵家のご令嬢が率先して敬遠されがちな清掃委員に立候補したことで刺激を受けたのか、クラスメイト達は自分に回ってきた仕事を、嫌がる素振りも見せずに受け入れていたことに、流石。という感想しか覚えない。


 最終日は今後の日程と一週間毎の時間割のレクチャーをして解散になった。

 解散が早いのは、この後街へ繰り出し来週の授業に必要な物を買い揃えるためだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る