ビヨン ザ グラス 第二話 "襲来"
想人~Thought~
第2話 "襲来"
「…さて、食事も済んだ事だし、家に帰るか、リズ」
「ええ、そうね……あっっ!!」
「どうした、リズ?」
「あ、あれ……」
「…!!!い、いかん、人間だ!!!」
「急いで逃げなきゃ…」
「そうだな。人間は何故か僕達生き物を捕まえたり殺したりしている鬼畜の連中だからな。リズ、飛べるか?」
「ええ、大丈夫よ。いけるわ。……守らなきゃいけない、命があるんですから」
二人の男が、離れた所からゆっくりと此方へ歩み近付いていたのだった。とりわけ深めの茂みの根元に、バリーとリズは身を潜めた。
「…………」
重圧な恐怖の中で身と共に息を潜め、沈黙が走る。バリー達の目前迄来た二人の男は、草地帯を抜けると、バリー夫妻などの虫達には目もくれず、川の手前に立ったのだった。
「…あの人間達、一体何をしようとしてるんだ?」
バリーがそう口にした。すると、一人の男が、手にしていた黒い鞄の中から大きな網を取り出した。その網を、男は川の中に投げ込んで敷き詰めたのである。
「どういうつもりなんだ、あの人間達……あっ!!」
バリーが言葉を漏らしたその直後だった。離れた所から、自分の巣へ戻ろうとしているダックがゆっくりと此方へ向かって来ていたのだった。
「ダック!!」
反射的にバリーは身を乗り出した。
「ん、バリー?何だ、どうしたんだ慌てた顔して?」
「ダック、危ない、こっちへ来るな!!」
「え?……うわっ!!!」
仕掛けられた網(トラップ)が、突然ダックに襲い掛かって来たのだった。
「うわっ、何なんだよこれ!?」
間一髪、ダックは網の回避に成功したのだった。だが掬い上げられた網の中には、自分以外のテナガエビやカワエビ、モクズガニら大勢の仲間達が捕らえられていた。
「み、みんな!!!…くっ、一体何がどうなってるんだ?よく分からない状況だが、……兎に角危険な目に遭ってるのは、事実みたいだな……」
数十歩進んだ先に、自分の巣がある。そこに向かって、全力で尾鰭を羽ばたかせたのだった。
「……よし、もう少しだ。あと、もう少し……」
死に物狂いで巣を目指す事にだけ意識を集中させていた。そうして、漸く巣の目前に到着する。
「…よし、着いたぞ。此処迄来れば、もう大丈…………」
ダックの意識が、一瞬遠退いた。もう一人の男が仕掛けた網に、捕らえられてしまったのだった。巣のほんの手前にして、ダックは瞬く間に陸へと打ち上げられてしまったのである。
「ダックーーー!!!!!!」
「う、……うわぁぁぁーーー!!!!!!」
ダックは白いバケツの中に入れられ、そしてそのまま、男達に何処かへと連れ去られてしまったのだった。
「…………」
「…………」
「……そんな、そんな、ダック、…嘘だろ、……嘘だろぉぉぉーーー!!!」
「あなた…………」
あまりにも突然すぎる残酷な出来事が、バリーとリズを苦しめた。とめどなく溢れる恐怖、怒り、悲しみの感情が、彼等の心を支配したのだった。
ビヨン ザ グラス 第二話 "襲来" 想人~Thought~ @horobinosadame
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