第6話

「靴は変えた方がいいな、雪道で濡れるといけない。予備を貸そう。靴下は汗で濡れてから替えを渡せばいいか。手袋は無い?それはダメだ予備を使え。そのズボンの下にはタイツか何か…履いてないだと、致し方ない、大きいが俺のレインパンツでも上から履け」

「あの」

「上着は?それだけ?じゃあ俺の着てるやつでも貸すか」

「いや、その」

「ヘッドランプは?ああ大丈夫だ予備がある。ピッケルはそうだな、俺は使わなくてもどうにかなるか」

「ちょっと」

「サングラスは?無いと雪目になるぞ」

「待って待って待って」


 自身の着ていた服を手早く脱いで投げてよこし、衒いも無く自身のバックパックから物品を次々と出す男に、戸惑う少女。

「何だ?俺の服は臭いか?我慢しろ」

「や、そうじゃなくて。あたし死のうとしてるんだけど」

「ああ大丈夫、この程度の装備なら普通に死ぬから」

 事も無げに断言する男。


「……ならいいけど」

 少女はいそいそと渡された服を身に付けた。男の巨躯を覆っていたヤッケに対し、年相応の大きさであろう少女の身体はすっぽり覆われてしまう。対して男は上下に着込んでいた服を少女に渡した為、一見してかなりの薄着に見える。

「おじさん寒くないの?」

 少女は腕に余った袖を弾ませながら尋ねる。

「ゾンビは寒さも冷たさも感じないんだ……ほら、袖が長いなら捲っておけ、危ないから」

「じゃあ何でこんなに着込んでたの」

「気持ちの問題さ」

 男は自嘲的な笑みを浮かべた。



 そうして2人は登り始めた。

「思ったんだけど」

「何だ?」

「おじさん顔隠してない方が自然だよ、ゾンビっぽく無いし」

「そうかな」

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