第43話 対談

 シライシ「こんにちは、本日はよろしくお願いします」


 麗華「麗華よ、よろしくね」


 シライシ「『るるグラス』愛用してますよ。僕ねP O Vポイント オブ ヴュー手法が多いんだけど、『るるグラス』は間違いなくPOVだよね」


 麗華「は? 何を言ってるんだか分からないわね」


 シライシ「ああ、ゴメン、POVってカメラ一つだけでドキュメンタリー風に撮影する技法の事でさ、機材やスタッフが少なくても作れるからお金のない無名の映画監督が低予算ですごいの撮ったりするんだよ」


 麗華「やめて! そんな貧乏クサイ話アタクシ聞きたくないわ!」


 シライシ「え~? 想像以上に『火星人ルル』そのものなパーソナリティだねぇー、これは面白いわー(笑)」


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『るるグラス』に魅了されたクリエーターたちは『るるグラス』を生み出した人物と会いたがった。


『るるノベル』公式サイト、公式snsにその申し出があれば全て麗華の『オフィス ルル』につながれ、麗華が対談し、動画が『ルル チャンネル』にアップロードされた。


 そして『ルル チャンネル』の動画は即、動画職人の手によって『火星人ルル』の新しい動画に作られてインターネットを駆け巡るのだった。


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 アーノルド「レイカ、キミの掛けてる『るるグラス』麗華スペシャルってさ、ボクが三本目の『T』映画でゲイのストリッパーから奪った服のポケットにあったサングラスと雰囲気が似てるよね?」


 麗華「ホーッホッホ、ありがとうアタクシのグラスを褒めてくださってるのね? どう? アーノルド、あなたも掛けてみる?」


 アーノルド「あ、いや結構。ボクはスタンダード タイプでいいよ(笑)」


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『るるグラス』のユーザーは海外にもいた。『るるキット』には言語の壁がなかったのだ。どの国の言葉で書かれていても利用可能だった。だから公式サイトはもちろんだが、二次創作物や創作倫理に引っかかる『闇キット』に手を出す海外ユーザーが増えて行った。


 反対に海外ユーザーによる『るるキット』やフリー素材、ストーリーのテンプレートもたくさん投稿されるようになっていた。『るるノベル』の公式サイトは、すっかり異文化の交流する場だった。


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 スティーブン「レイカ、もっと早くに出会いたかったよ。私はすっかり老いてしまった」


 麗華「は? やめてよ! そんな辛気臭い話! 聞きたくないわ! こっちの運勢まで落ち込んじゃうじゃない!」


 スティーブン「いや、あの、何が言いたいかと言うと、私の小説は世界中のファンから愛されると同時に、本が分厚過ぎて手が痛くなるから読めないと言われ続けて来たんだ」


 麗華「確かにこの厚さで上下セットが基本では無理ないわね! これ持って筋トレでもしましょうか!?」


 スティーブン「私の伝えたい、心臓をえぐるような恐怖を表現するには、これだけの言葉でリアリティを語り尽くす必要があるんだ」


 麗華「だから? 何だって言うのよ!」


 スティーブン「だからね、私が若かった頃に『るるグラス』があったなら、その機能をフルに活用して、ユーザーに与えうる限りの恐怖を全て盛り込んだ『るるノベル』を作って、未来永劫、忘れられない身の毛のよだつ体験をさせただろうに、と言う事なんだよ。


 どうだろう? 地下室の暗がりにひそむ得体の知れない不気味さを君は感じた事があるかな? 雪に閉ざされたホテルに取り残されるってどう言うことであるのか分かるかね? 薄気味悪い濃い霧の中に異世界から来たクリーチャーが潜んでいて、共に生き残ろうと戦って来た仲間が一人また一人食い殺されて、もはや武器も食料もガソリンも尽きた時の絶望がどんなものか知っているかね? 人肉の味を覚えてしまった人喰い犬と殺人鬼のさまよう山小屋で寒さと飢えと幻覚に悩まされる気持ちを想像できるかね?」


 麗華「本当に何言ってるか分からないわ! 文字数が多過ぎよ!」


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 世界中のクリエーターたちは『るるグラス』に出会い、新しい創作物を世に送り出しはじめた。そしてクリエーターたちに賞賛される『るるグラス』は更に多くの人々に知られるようになった。


「『るるグラス』の本当のイメージキャラクターはね、麗華でもないし、イラストの『ルル』でもないんだよ。


『火星人ルル』こそ『るるグラス』のシンボルなんだ」


『るるノベル』室長になった山瀬は、『るるグラス』によって世界に新たな刺激を提供でき充足感を得ていた。世界を相手にして、今までになかった感動を与えるのはとてもエキサイティングだった。


 麗華がやりたいようにやって行けば、それが全て新しい『火星人ルル』を生み出し、さらに多くの『るるグラス』のファンが生まれた。山瀬にとっては『火星人ルル』を通して麗華が大物になって行く事が喜びだった。どこまでも大きくなって行って欲しいと願っていた。


 しかし麗華は、一見して華やかに見えるその活動から満足感を得られずにいた。


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 ガガ「こんにちは、レイカ」


 麗華「なんなのソレ」


 ガガ「いかがかしら? ワタシの『火星人ルル』ファッション? 気に入ってもらえるかしら?」


 麗華「は!? 気に入る訳ないでしょう!? 誰も彼も二言目には『火星人ルル』!! アタクシはね『火星人ルル』を宣伝する人じゃないのよ!!」


 ガガ「オー! グレイト!! 『火星人ルル』はそうでなくっちゃ!! ワタシ本当に会えてうれしいデス『火星人ルル』(チュッ)」


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 麗華が何もしなくても国内外から著名人が麗華に会いに来た。彼らの関心は麗華にはなかった。彼らが賞賛して愛するのは『るるグラス』であり『火星人ルル』という架空のキャラクターだった。


 麗華との対談はまったく噛み合わず、いつでも麗華は途中でイライラに耐えられず感情的になって行った。


 そして、それこそが人々が見たがる『火星人ルル』の姿だった。

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