第42話 社内報

 この度、新設された『るるノベル』室を紹介させていただきます、担当のタカオです。


『るるノベル』は『るるグラス』用に作られたコンテンツで、イラストや写真が多目で文字数の少ない薄い本として販売されています。『るるグラス』につきましては皆様よくご存知の事と思いますので割愛します。


『るるノベル』の主目的は、QRコードをスマートフォンで写してインターネット上にある『るるキット』をダウンロードする事にあります。したがって大部分の『るるノベル』の本文およびイラストはあらすじや概要を伝えるためのものです。


 ちなみに、この社内報の記事も『るるグラス』で見ていただけるよう『るるキット』を準備してありますので、QRコードからアクセスしてください。


 さて『るるキット』にはストーリー、イラストまたは写真、そしてキットによっては音楽のデータが入っています。


 既存の文芸作品を『るるグラス』で楽しめるようにシーンに合わせたイラストを添えてキット化したのがはじまりでしたが、『るるグラス』の人気が上がるごとに、『るるノベル』のために新たに作られるストーリーが多くなりました。


『るるノベル』公式サイトにはユーザー様からの『るるキット』投稿ページがあり、様々なジャンルの投稿で溢れています。


『るるグラス』人気の最大の理由は、文字を読まなくてもストーリーを楽しめる事なのです。


 これまでも人気小説はアニメ化や映画化される事で、読書習慣のない人にも娯楽を提供していたのですが、『るるノベル』『るるキット』は、アニメや映画のように制作会社に依らずに、ユーザーの頭の中でアニメや映画のように脳内再生できるのです。


『るるキット』投稿ページには、様々な年齢層のユーザー様から実に多種多様な『るるキット』が投稿されてダウンロードされています。


 投稿される『るるキット』は、ストーリーがオリジナルであれば、添えられるイラストや写真そして音楽はフリー素材でも可能なのです。それに伴い、『るるキット』用に使えるフリーイラスト、写真、音楽の投稿ページも作られました。


 先程も申し上げましたが、この記事自体も、こちらのQRコードからアクセスして『るるグラス』での脳内再生が可能です。


 文芸やマンガに限らず、ビジネスシーンでも使える『るるグラス』を、各部様でも大いにご活用いただけましたらと思います。


 各部コンテンツの『るるキット』化につきましては、『るるノベル』室の明海、タカオ、または室長の山瀬にご相談ください。


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「タカオく~ん、文章カタイよ~、『るるノベル』は娯楽なんだからさ~、もっとかる~い文章で書こうよ~」


 社内報に寄稿したタカオの文を読みながら明海は言った。


「明海先輩、無理言わないでください。ボク、コンピュータ専門誌から来たんですよ。文章自体ニガテです」


「え~~~、『るるノベル』室のメインの仕事は投稿ページとsnsなのに~?」


「ボク、『るるキット』のメンテナンスやりますから。『るノベ』作家様たちやユーザー様とのコミュニケーションは明海先輩が得意でしょう?」


『るるノベル』での明海の毎日は、ユーザーから投稿される『るるキット』を脳内再生したり、snsでレビューをつぶやいたり、明海の好きな事ばかりで一日が過ぎて行くのだった。


 タカオが社内報に書かなかった事だが、投稿ページのフリー素材には『るるキット』以上に人気の素材があった。


『ストーリーのテンプレート』である。


 今では『START』でマンガの原作をする他に、オリジナルの『るるノベル』もコンスタントに出している『るノベ』作家となった茂辺地と明海がノリで作ってsnsに流した『茂辺地が考えた最高の復讐ストーリーのテンプレート』という『るるキット』がはじまりだった。


 言わゆるシナリオなのだが、場所や登場人物などをカスタマイズできるように、タカオにサイトをいじってもらったので、実在の場所や人物の写真を使って、リアルな復讐体験を『るるグラス』でできるのだった。


 体験者はものすごいカタルシスを感じたと大満足だったらしい。


『最高の復讐ストーリー』に続けて『最高のサクセス ストーリー』『最高の冒険ストーリー』『最高のプリンセス ブライド ストーリー』など、テンプレートシリーズが茂辺地によって作られたのだが、やがてユーザーによる個性的なストーリーのテンプレートが投稿されるようになったのだった。


 ゼロからオリジナルでストーリーを作れないユーザーも、テンプレートとフリー素材の組み合わせで自分好みの『るるノベル』を楽しめるのだ。


 このテンプレートには『最高の火星人ルルのストーリー』シリーズもあった。


 それから、これは『るるノベル』室とも公式サイトとも関わりのない事だったが、非公式な『るるキット』のサイトも多数あり、むしろこちらの人気が高かった。


 非公式サイトでは公式サイトで認めていない二次創作などの『るるキット』やフリー素材、ストーリーのテンプレートが扱われているのだが、それらは『るるノベル』室とは全く関わりのない物だった。

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