第27話 強制自白装置
「落雷に遭った日の麗華の行動を把握しているか?」
龍蔵の病室に突然現れた黒服の男、昭島は有無を言わせぬ様子で言った。
「何だ君は? 麗華が何だと言うんだ? 当然、家にいただろう」
答える必要はないと思いながら隆志は答えていた。昭島はただならぬ威圧感を醸し出していたのだ。
「あ、いえ、その夜、麗華は家にいなかったらしいのよ」
登美子は隆志の答えを訂正した。
「え?」
「私もずっと病院にいたので家の事はよく分からないのよ、でも敬子さんは麗華が次の日の夜に帰って来るのを見て、その時になって麗華が家にいなかったと気付いたって言ってたわ」
「ずいぶんな言いようだなぁ、敬子さん。まぁ、親爺の一大事で使用人たちも普通じゃなかったから無理ないのかな?」
やや緊張感のない様子で美津雄が言った。
「週刊誌の記事が世間を騒がせているが、独自取材だな? その取材について何か問題は?」
隆志が当時任されていた週刊誌で大きな事件をスッパ抜いていた。
「何なんだ君は!?」
と言う隆志の鼻先に昭島は写真の束を突き出した。写真を手に取った隆志は「うわぁっ」と叫び写真は足元の床に散らばった。
登美子と美津雄も床に落ちた写真を見て息を呑んだ。写真には死んだ人々--殴られ刺され血を流し顔を腫らし普通でない死に方をした人々--の姿が写っていた。
「何なんだ君は、重病人の病室で、こんな物を」
ベッドの上で身動きも出来ず声も出せない龍蔵は、思い通りになる数少ないパーツである目玉を精一杯に動かして見知らぬ男、昭島を見ようとしていた。
隆志が床に落とした写真を拾うと昭島は龍蔵の顔の前に持って行き一枚ずつめくって見せる。龍蔵は次々めくられる写真を見開いた目で食い入るように見た。
「何なんだ、この死体の写真は」
間に入って昭島を止めようとした隆志だが、龍蔵のその表情に気付いて代わりに言った。
「龍蔵は知っているようだが」
昭島は写真を隠しにしまい、代わりに眼鏡を出して龍蔵に見せた。
「今ワシが掛けている
龍蔵の声に似せた人口音声がスピーカーから出た。梨沙と山瀬は龍蔵のそれを凝視した。龍蔵は落雷事故で退院して来た時からずっとこれをしていた。
当時梨沙は中学生、山瀬は小学校にも上がっていなかった。龍蔵のような病気になると、こんなサポート器具を使うようになるのだと漠然と考えていた。
「昭島はこれの説明をするとワシに掛けたいか? と聞いたんじゃ」
昭島はこれが強制自白装置であり、これを掛ければお前の考えが音声になる、お前は喋れるようになるんだと説明した。
「強制自白装置じゃ。強制自白装置」
中学生ならそういう物と受け入れるとしても、龍蔵も登美子たちもそれが現実離れした物と判断出来た。昭島以外がそれを言ったなら。
昭島には時代を超越した技術を持つ、とてつもない組織に属する人間だと信じさせる何かがあった。
「こいつを掛けたいなら瞬きをして合図をしろと昭島は言った。ワシは瞬きをして掛けたいと答えた。拒絶したならそれを使う機会は二度とない、そう思ったのじゃ」
龍蔵が力強く瞬きをするのを見て昭島は龍蔵に
「なぜお前はその写真を持っている? 場所はどこだ? そいつらは何者だ? 殺ったのは麗華なのか?」
スピーカーの人口音声は立て続けに問いかけた。登美子たちは驚いていたが、思いを伝えられるようになった龍蔵は表情が和らぎ安堵しているのが見て取れた。
「どうして麗華が殺したと思った?」
昭島はすかさず聞き返す。
「ワシは見た。何のためらいもなく麗華は殺った。ワシとは違う! 麗華はまるで、まるで--そこまで言ってワシは言い淀んだ。
いや、言い淀むと思った。
この違和感、何かおかしい、この昭島という男、普通じゃない、
そうワシは思い、それを全て
肉体を離れたワシが麗華が人を殺す場面を見ていたと言うのをお前は容易く理解するのか?
この目で見て、麗華の振るう暴力を、殺られる側の立場で、この身に受けたと体験した、このワシでさえ受け入れ難い事なんじゃぞ」
「知っているからだ」
昭島の言葉を聞いて表情を変えたのは龍蔵だけではなかった。
「何を知っている? お前は何者なんだ? あの邪悪な蛇をどうしようと言うんだ?」
龍蔵の考えが即座にスピーカーから出るので、むしろ龍蔵自身が驚いていた。
「大したことは知らん。まだよく解っていない。とても危険だと言うこと以外はな。それでお前に聞きに来た。貴重な生存者だ」
「昭島が言うのを聞いて、やっとワシはあの邪悪な蛇が、もうワシの頭の中にいないのに気付いたんじゃ。
昭島は言った、邪悪な蛇が麗華を選びワシは抜け殻に、だからこんな身体になったのじゃとな。落雷のせいではなかったのじゃ。
ワシは言ってやったさ、この
理由が分かるか? ワシの頭蓋骨の中にあったとて何の役にも立たんが、可視化されたデータならお前たちの役に立つ。お前たちはワシよりマシな時代を生きておる」
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