第5話
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扉からと飛び出して尻餅をついた。
床はフカフカな真っ白な綿のようだった。
辺りを見回すと同じく真っ白で、雲の上だと誰もが思うような場所に居た。
雲の隙間から一人の影が出てくる。
「うわぁ!」
思わず俺は叫んだ。何せ何度もうなされた伯父さんが出て来たからだ。
「久しぶりだな、司よ。」
「お…伯父さん…。」
相変わらず仙人の様な出で立ちの伯父さん。
今も昔も雲の上にいるのに全く違和感がない。
伯父さんとは夢で会う事はあれど、面と向かって会うのはあの結婚式以来で、俺が結婚してすぐに亡くなっているのだ。
「お前、ワシの遺言を無視したじゃろ。」
「遺言って…。」
「子育てをしっかりせいっ!って事じゃよ。」
「…なるほど。それでさっきの映像をずっと見せていたのか。」
「アレはだな、走馬灯じゃ。」
「え?走馬灯って、自分の人生のダイジェストなんじゃないの?」
「お前の人生?そんなもんちっぽけ過ぎて見たってしょうがないじゃろ。」
「おいおい、そんな事ない………。」
そう言って思い返すも、俺の人生…つくづく良い事なかった。
「…じゃろぅ?!
だから反省の意味も込めて、スミレさんの走馬灯を少し拝借したのじゃよ。」
「そうか…反省ね…。」
確かにあの映像を見れば、鈍感な俺だって反省するよ。
「…でもさ、反省しても今更じゃない?
だって俺は死んだんだろ?」
少し拗ねた様に、俺は体育座りを整えて下を向いた。
「司よ。顔を上げい!」
「は?」
「ワシはこれでも神の一員としてこの天上界に存在している。」
「か…神?」
「そうじゃ、ワシは神じゃ。」
「えっ?伯父さん…神だったの?」
「…お前はつくづく、鈍感じゃな。ワシの名前はなんじゃ?」
「えっとぉ…、確か変な名前だったよな。
神田…すい…すい…水分(スイブン)!」
「水分(みくまり)じゃ!水分神(ミクマリノカミ)じゃ!!」
「ミクマリノカミ…?!?!」
「水の神様じゃ!」
そう言い切るとなにやら自慢気なドヤ顔でハッハッハッハーと笑い出す伯父さん。
俺はただその顔を見つめて、アハアハッと釣られ笑いをするしかなかった。
「コホンッ。それで、司。お前は神の使いとして生を受けたのに、なんじゃこの有様は!一人の娘も幸せに出来ないで。」
「は…はい。すいません。って俺、神の使い何ですか???」
何故か敬語になってしまう程、色々な情報が頭の中で整理できていない。
「そうじゃ、今更かお前。自分の名前を考えれば分かるじゃろ。もっと頭を使え!!」
「は…はい。」
神田 司(カンダツカサ)、神司(カミツカイ)。
神の世界って意外と単純なんだなって、そんな反論もする気になれない。
「ワシは、我が大いなる父と母、伊邪那岐命(イザナギノミコト)と伊弉冊命(イザナミノミコト)が作った日出ずる国、この日本をお守りをする使命を受けて地上に降り立った!」
伯父さん…改め水分神は急に天を大きく仰ぎ大きな声で話し出した。
「水の神として日本に降りかかる災害を必死に守って来たのじゃが、なんじゃこの国は!聞くところによると、あと30年もすると国民自らが壊滅させてしまうというじゃないか!」
「はぁ…何か戦争でも起きるんですか?」
「はぁ…じゃない!お前も当事者だぞ!
戦争なんかよりもっと深刻じゃ!」
「もっと深刻?」
「そうじゃ!深刻な問題…それは…」
「それは…。」
グイッと伯父さんが僕の顔に近づいた。
「少子化じゃ!少子化が問題なんじゃ!!」
「え?少子化ですか?」
「そうじゃ!」
「…意外と在り来たりな問題で…逆にビックリしました。」
俺としてはもっと大災害的な、映画みたいな出来事が起きるのかと思ってポリポリと頭を掻いた。
「…さてはお主、少子化を舐めてるな…。」
ジロリと伯父さんに睨まれる。
「いや、別に舐めるもなにも…俺は俺で男だし…子供産めるわけでもなくて…誰彼構わず子作りして増やすって訳にいかないし…むしろその方が罪深い様な…」
「何をごちゃごちゃ言っとるんじゃ!馬鹿者!」
「…だって…俺の力じゃあまりにもどうすることも出来ない問題だからさ、少子化って。俺が女だったらまた別だけども…。」
「全く…!!お前の様な男がこの世に多いから今の世の中が少子化になっとるんじゃ!分からんか!」
完全に呆れた顔で伯父さんが腕組みをする。
「俺の様な男?」
「そうじゃお前の様に傲慢で、 怠け腐った、女々しい、暗ーーーーい男じゃ!!」
なんか暗ーいって部分が、小学生のガキの悪口と同じ様に聞こえて、若干カチンときてしまった。
「百聞は一見に如かずか…これを見るがよい!」
そう言うとガキみたいなジジイ…改めて水分神は手に持っていた杖を振ってシュッと丸を描いた。
すると小さな雲がグルグルと回り、楕円形の鏡の様な形になった。
映し出されたのは渋谷の交差点だった。
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