1‐11 美少女の悩みと部室の鍵
そんなメディア研究会に入らなかった潮音だが、俺たちが誘って以降は頻繁に部室に現れるようになった。
一応何度も部室を使うようならば正式に入れと何度も入会を勧めたものの、決まって潮音は「嫌よ」の一言で頑なに入会をしなかった。
そこで聞いてみることにした。何故今日それを聞くことができたのか。それは二日前に結衣の勧誘が失敗に終わったことに起因しているのかもしれない。
「代々木ほどの奴ならどこのサークルに入っても歓迎ものだろ?なのに何でどこのサークルにも所属していないんだ?どこかのサークルに所属すれば堂々と部室使えるのに」
その質問に潮音は一呼吸置いて答える。
「まあ…こんなこと言っちゃうと自意識過剰のように聞こえるんだけど、私が入ると私を巡って余計な諍い引き起こすことが多いし、それも含めて女子があまりいい顔しないから結局居づらくなることが多そうなのよね」
そういった話にあまり縁がない俺には想像しにくいが、美少女には美少女なりの悩みがあるということか。
「あと、特に今サークルに入ってまでやりたいこともないし、そんな状態だから入りたいサークルもないのよね。かといって大学図書館で過ごすと男共の視線がウザイし、猛者が話しかけるから落ち着いて過ごすことも出来ないし、毎回空き教室探すのも面倒臭いのよ。その点ここなら安心ね。あんたたち私のことをそういう目で見ないから結構気が楽だもん」
「なら名前だけでも入れよ」
「えーそれは嫌。朱鷺と長年幼馴染やってるけど、あいつと関わったら面倒ごとに巻き込まれそうだし」
「それは同意だ」
阿佐谷と関わると面倒ごとに巻き込まれる。それは大学からの知り合いの俺でも十分に実感しているというのに、幼馴染である潮音ならば余計にそう感じることは想像に容易い。
美少女の心底嫌がる顔を見ていたら阿佐谷と全く関わりのない人間もそう思うだろう。
「ところで、前から疑問に思っていたが、部室の鍵はどこで手に入れたんだ?渡した記憶が全くないんだが。阿佐谷からも渡したって聞いてないし」
ついでだから第二の疑問も聞いてみる。
すると潮音は「ああ、これ?」と自分で勝手にキーホルダー鍵を人差し指でくるりと回転させる。
「朱鷺と一緒に飲んだ時にそっと抜いて近くの合い鍵屋で複製させたのよ。あんまりにも簡単に事が済んだからちょっとあいつの防犯意識を疑ったわ」
悪びれもせずにニンマリと答える潮音にゾクリと寒気を覚える。
やはりこの女、見た目だけは天使で、それ以外は悪魔だ。いや、そうでなきゃ阿佐谷と幼馴染なんてやってられないともいえるが、それでも恐ろしい存在なのに変わりはない。
だからこそ、こんなに近くに美少女がいても少しも心が躍らないわけなのだが。
そんなわけだから、折角美少女とお知り合いになれたのに、特に良いことなどは起こらないし、こちらとしてもそれを望んでいるわけではないのである。
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