1-9 部室の中の美少女
大変申し訳なさそうに結衣が断った後、当然ながら室内は微妙な空気になり、なあなあの内に解散になった。
無理もない。ただ断られただけではなく、その理由が既に映像研究会の部員だったことに創立以来映像研究会と対立してきた俺たちにとっては多大なショックを受けるに値することだった。
そんな結衣の断り文句が相当堪えたのか、阿佐谷は結衣が部室を出た後血の涙を流しながら無言で帰り支度を始めるくらいだった。俺も相当なショックを受けていた筈だったのに、あまりの憔悴っぷりから思わず家まで送り届けたほどだった。
それが二日前の出来事である。
二日間俺と阿佐谷は顔を合わすことはなかった。会ったらあったらでうるさいことこの上ないが、会わなければそれはそれで調子が狂うものだということに気が付いた時は自己嫌悪に陥った。
久しぶりに完全に一人で過ごす大学生活は静かだった。
あまりにも静かだから心穏やかに過ごせると思ったのに、気が付いたら部室に足を向けていた。
今日の講義は全部終わったから、放課後のバイトは今日ないから等と誰にむかって言っているのかわからない言い訳を心の中に並べて、部室の前に立つ。
やはり部室の中に阿佐谷の気配はなかった。しかし、空いていない筈の鍵は開いている。
何度も言うが、メディア研究会の部員は俺と阿佐谷の二人しかいない。けれども、鍵が開いているのはもう慣れっこである。
扉を開けると、中からふんわりとした初夏の風が吹いてきた。
部屋の開いている窓に寄りかかるようにいた一人の少女の銀色の髪が揺れていた。
「あら、今日は随分と遅かったじゃない」
少女は俺を見るなり一言そう言った。
「真面目に講義に参加してりゃ遅くもなるんだよ。そういうお前こそ部員じゃないのに何でここにいるんだよ」
「そんなの決まってるじゃない。鍵を持っているからよ」
俺の問いに悪びれもせず答えるその姿に呆れて溜息すら出ない。
代々木潮音、それがこの美少女の名前である。
潮音はその外見からわかるように、男女問わず誰もが振り返るような美少女だ。
初めてその姿を見た者は全員間違いなく振り返る。かくいう俺も初めて見た時は振り返ったことがあるわけだが、その姿は地上に降りた天使と呼ばれても納得できるものである。
夜空でも輝くような若干ウェーブがかかった銀色の髪に、陶磁器のような白い肌、それに見合う整った顔立ちだけではなく、平均よりも若干高い身長にすらりとした体形、そして胸は男ならば誰もが羨むレベルの大きさを誇るものだから、神は二物を与えないという言葉が嘘に思える。
つまり、何が言いたいのかというと、こいつは美少女という要素を全て兼ね備えており、外見だけならば完璧そのものである。
もちろんその容姿に相応しく、昨年度は創立以来初の満票一致でミス海帝の名も手にしている。
そんなパーフェクト美少女と俺のような男が何故知り合いなのか。答えは単純、阿佐谷と潮音が幼馴染の関係だったからである。
そしてこいつが何度誘っても入りそうで入らない、でも入会に心当たりのある女というのがこの代々木潮音だった。
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