1-5 お菓子と幸せ
大量に籠に入れられたお菓子が無事にレジを通るのを見届け、俺も適当に見繕った商品の支払いを済ませた。
一瞬レジ横にあったホットスナックに手を伸ばそうかとも思ったが、新たに注文するのが少々面倒臭かったためやめた。
一つだけ商品が入ったレジ袋を片手に持ち、コンビニを出た時だった。
「あのーすみません」
と声をかけられた。
声の方向に振り向くと、そこにいたのは先程の大量にお菓子を購入した女子だった。
改めて彼女を見ると、身長は見た感じ平均的な高さなのにどことなく小柄さを感じさせるものであった。フリルの付いた可愛らしい洋服に身を包み、肩の辺りの長さの黒髪が風に静かに揺れている。その様がより彼女の可憐さを際立たせていた。
彼女との関わりは先程の会話で終わった筈だ。今更何を用があるというのか。
疑問に思う俺とは別に彼女は中身が詰まったレジ袋から一つのお菓子を取り出すと
「これ、良かったらどうぞ」
と俺に渡した。
「えっと…」
「先程のお礼です。お菓子拾うの手伝ってくださってありがとうございました」
照れくさそうに笑いお辞儀をする彼女。
「私、食べることが趣味みたいなものだから美味しい物食べる=幸せって考えを持ってるんですけど、折角だからその幸せをお裾分けみたいな…」
「でも、これ元々君が食べるものじゃ」
「別に大丈夫ですよ。まだまだこんなにありますから。あ、それとも甘い物よりもしょっぱい物の方が良かったですか?」
俺が持っていたレジ袋の中に入っているポテトチップを見て慌てて別のを取り出そうとしたが、俺は「大丈夫!」と止めた。
「俺、甘い物も結構いける口だから。ていうか、ポテチと一緒に食べるチョコとか最高じゃない?」
「最高です。甘い物食べたらしょっぱい物も食べたくなっちゃいますよね」
食い気味に俺の言葉に激しく同意する彼女。よほど食べることが大好きなのだろうか。
「それじゃ、有難くもらおうかな」
「はい、どうぞ」
彼女から貰ったチョコレートの箱のパッケージは可愛らしく普段ならあまり購入しないものだろう。新鮮な体験である。
「ありがとう」
「いえいえ」
そう言って彼女は可愛らしく笑い、「それでは」とその場を離れた。
鈴を鳴らすように立ち去る彼女のその姿に俺は思わず
「あのさ!」
と呼び止めた。
その声に彼女は不思議そうに振り向く。
何故呼び止めたのかはわからないが、しいてあげるとすれば立ち去る彼女の姿がなんだかどことなく寂しそうに見えたからだろうか。
自分から呼び止めたくせに、なかなか次の言葉が思い浮かばない、出すことが出来ない。
それでも彼女はジッと俺の言葉を待っていた。
「あのさ、そのお菓子もしかして家で食べるの?」
ようやく出て来た言葉がそれだった。
発言した自分が言うのもあれだが、全くもって失礼な言葉である。彼女に対する申し訳なさに冷や汗が背中を伝う。
この後不審気な表情で「なんでそんなこと聞くんですか?」というようなことを聞き返されそうだ。少なくとも俺の知り合いの奴はそうだ。
しかし、彼女はそうでなかった。
俺の失礼な質問に対し、寂しそうに笑って答える。
「そうですね。家で食べようかなって思います。勢いで大学のコンビニで買っちゃったけど、よく考えたらこの量のお菓子をここで一人で食べるってちょっとおかしいですよね」
「だったら、一緒に食べない?」
「へっ?」
「あ、別に君のお菓子をたかろうってわけじゃないよ!俺は貰ったチョコで充分だし!もし良かったらの話だけど…」
気が付いたらそんなことを提案していた。提案した後にきっと断られるだろうなとも思った。出会ったばかりのよく知りもしない奴の提案に乗ってくれるわけがない。わかりきっている話である。
それでも、彼女はそんな俺の提案に乗ってくれた。
「いいですよ」
「え?」
「幸せは分け合った方がいいですし。丁度この先特に用事もありませんし、別に大丈夫ですよ。お菓子パーティしましょう」
そう言うと先程のどことなく寂し応な表情は消え、今度は嬉しそうに笑った。
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