1-4 彼女との出会い
俺と阿佐谷が通っている大学構内には何故かコンビニが二つもあり、大量の学生の需要を満たしている。
部室から一番近い大学構内バス停近くの某大手コンビニは丁度講義の時間中の為だったのか、お昼時の混雑具合とはかなり対照的だった。
阿佐谷の頭を冷やすことが目的だったため購入する物が決まっていなかったが、折角中に入ったのだから買う物を探してみる。とりあえず商品棚を見ていれば何か買いたい物でも見つかるだろう。
そう考え、なんとなく中をウロウロしていた時だった。
店内で一人の女子が大量のお菓子を腕に積み上げて運んでいたのが目に入った。
俺がそれを見始めた時点でもかなりの量だった筈なのに、更に続々と積み上げている。
随分と器用である。
そして、そのまま中を移動するものだから見ていて非常に危なっかしいことこの上ない。
女子が動く度に危なげに揺れるお菓子のタワーを見ていると、関係ない筈なのにこちらまでまで冷や冷やしていると
「きゃあ!」
「あっ」
目の前で物の見事にこけた。
コンビニの照明に反射した硬そうな白い床に思い切り体当たりするその姿は見ているだけでも痛そうで、無関係の筈なのに思わず
「大丈夫!?」
と駆け寄ってしまった。
その女子は無言で起き上がり関口一番に
「お菓子!私のお菓子が!」
と発言した。
どうやら俺の声は届いていなかったようだ。明らかに持っていたお菓子よりも自分の膝の心配をした方がいいにきまっているというのに。
もう一度「大丈夫?」と声をかけてみる。
するとようやく反応し、見上げるように俺のことを視界に入れた。
痛みなのか、それともお菓子を落としてしまったショックなのかその瞳は若干涙目であり、自分が泣かしたわけでもないのに一瞬ドキッとしてしまった。
「怪我とかない?」
「な、なんとか大丈夫です」
肩くらいの長さの黒髪を揺らし、俯きがちに答える若干タヌキが見せるような困ったような表情を見せるその姿に不思議ともっと話してみたいと感じた。
急いで近くにあったバスケットを持っていき、床に散らばったお菓子をその中に入れる。
「それにしても、大量だね。もしかしてこの後友だちとお菓子パーティーでもするの?」
「一人で食べる予定です」
「一人で!?」
「はい」
「それが何か?」と言ったようなきょとんとした目で俺を見る。
この量のお菓子を一人で食べるのが信じられないくらいの大量のお菓子に俺は驚きざるをえなかった。
こんな小さい身体に一度に入るお菓子の量にしては許容量を超えてはいないか。
何か特別な事情でもあるのか勘繰りたくなる。
「初めはこれの半分くらいを買う予定だったんですけど」
「これの半分!?半分でも結構多いよ」
「でも、新発売のお菓子を見てる内にあれもこれもって手を伸ばしちゃいました」
「そうなんだ」
恥ずかしそうに彼女は微笑んだ。
その微笑みにふと、もしこんな娘が部室にいたら楽しくなるだろうなと思った。
「拾うの手伝ってくれてありがとうございます」
床に落ちたお菓子を全部拾った彼女は立ち上がり、お礼を言ってレジに移動した。
彼女のフリルのついたスカートが印象を残すように翻った。
このほんの少しの偶然の出会いが俺のこの先の大学生活を変えるものだとこの時は思わなかった。
それくらいこの時の会話は俺にとって小さな可能性の扉を広げるものに過ぎなかったのだった。
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