1-3 そして彼は始めた

 とはいっても、彼が飽きっぽい性格なのは濃厚な付き合いをしていれば一目瞭然である。

 そんな阿佐谷がある日突然前触れもなく映画を撮りたいと発言したのは別に驚くようなことでもなかった。

 どうせ何を言っても無理やり付き合わされるのは目に見えている。そしてすぐ飽きることも。

 だからこそ、そのように発言した直後に早速映画撮影に関する調べものをしている様子を生暖かく見守ったり、一緒にやろうと誘われた際には、丁度自分自身やりたいことも特になかったので飽きることを前提にその行動に付き合うことにしたのだった。

 けれども、飽きる気配は一向に見せなく、気がついたら「メディア研究会」という名前でサークル申請をしていたり、どんな手を使ったのか空いていた旧オカルト研究会の部室を部室を手に入れたりしていた。

 おまけに既存の映像研究会に道具の貸し出しを頼み続ける始末である。


 彼は良くも悪くも有言実行な面があり、行動に移すのは非常に速いが、それが持続することは大変珍しいといっても過言ではない。

 非常に飽きっぽいこの男がかつてここまで行動していたことがあっただろうか。  

 否、俺の記憶が正しい限りそれはなかった。何がここまでこの男を本気にさせたのであろうか。

 だからこそ俺もいつも以上に協力しようと思ったし、なんならほんの少しワクワクしていたことも事実だ。

 それなのに、あの見たくもないムサイ男の土下座を見る羽目になってしまったのは、そんなことを思いながら一か月が経とうとした頃のことだった。

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