1-2 阿佐谷朱鷺という男
出会ってから暫くすると阿佐谷は流石に普通の恰好になった。
まさに量産型の大学生。少しでも大きな商業施設ならばありそうなファストブランドの洋服に身を包み、髪型もモヒカンの金髪から黒の短髪になった。
つまり、隣を歩いていてもそんなに羞恥心はない。いいことである。
かといって奇抜な性格はそのままであった。人間、第一印象が大事だとよく聞くが、その通りであった。今にして思えばそれを体現したのがあの日の出会いだった。
この男と一緒にいると大体いつも急な思い付きで巻き込まれる。例を挙げればきりがない。
朝一番に家に突撃された挙句にバンジージャンプを飛ばされた時は本気で殺したくなった。
それ以外にも色々とある。
地方自治体が行った規模の小さい大会とはいえ、急に漫才コンビをくまされてお笑いコンテストに出場させられた時は恥ずかしくて死ぬと思ったし、その他にも事前予告なしの富士山登山とか秘境すぎる温泉にも連れていかれた時もあった。
夜の大学に侵入した時は巡回していた警備員に見つかり、死ぬ思いをして逃げ回った。それを奴はリアル鬼ごっこと笑って述べた時は本気で殺意が湧いた瞬間でもあった。
何にしても体力精神共に粗削りされたし、もう一度体験したいかと問われれば音を立てるくらいに首を横に振り否定する。
しかし、そんな思いをさせられたのにも関わらず不思議と奴を憎むことはなかった。
然るべきところに訴えたらそれなりに大事になるようなことをされたというのに、阿佐谷朱鷺という男はどうにも憎めない、そんな奴だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます