第55話 24 シャドー


『ところでジャスティス、キミの思考を取り入れた結果、その結論は当たりだろうな』


 唐突にAI:シャドーがそう言うと、デスロードに空中連撃をしている俺は加速させた思考内で会話する。


「俺の結論?……この世界のことか?それともケージェイのことか?」

『違う!ズバリ!キミの好みが〝マリシャ〟だと言うことさ!』


「……」

『次に!ナナ!最後にカイトだね!性格でいうとカイトが一番でナナ!マリシャとなってしまうんだが――』

「一体何を言っているんだ……」


 自身のコピーであるシャドーの言葉の意味が理解できず、俺は少しだけ戸惑う。


 もう少しその意識が強ければ、完全に処理領域が停止し、デスリッチのサイスをかわせなかったかもしれないところだ。


『ジャスティス、キミだって男であり、性に対する欲があるということさ、……割合はかなり少ない方だがね。と言っても、私としてはもう少し男としての欲求を満たして欲しい所なんだが』


 まったく、こいつは――


「……戦闘の邪魔だ、黙ってろ」


 刹那の会話を振り払い、装備を大剣に換えデスリッチに斬りかかる。大剣を刺したまま断続ダメージを与えて、カウンターであるデスロードの大剣を避ける。


 その瞬間に再び処理が加速される。


『ジャスティス、冗談はこれぐらいで本題に入ろうか』

「……冗談を言っていたのだとしたら、大したコピーだ」

『現在キミの記憶と推測を鑑みた結果、この世界の攻略は不可能だ。キミも察している通り、最初の大陸をクリアするのに、レベル100は必要であると推測される』


「……おそらくだけどな」

『その結果からこの事件の首謀者はゲームのクリアなど望んでいない。レベルを上げさせたのち、おそらくは目的もなく新たな人と人の抗争を起こそうとするだろう』


「最終的な目的は――」

『大規模なPvPだろう』

「そのための広域な戦闘フィールドということだな……」


 さすがは自身のコピーだと関心する。


『ゆえに子孫を残すべきだ、現状無謀な事ではあるがね』

「……俺の関心を返せ――」


 脳内で溜め息を吐くと、デスロードの大剣を掻い潜り、空中で縦に回転して手に持つ大剣の刃を数回ほど当てて、HPバーを削り切る。


 赤いエフェクトと、黒系統のエフェクトが飛散して、デスロードが消え去る。瀕死の状態のデスリッチの動きが速くなったように感じるのは、モンスター一体分の処理が無用になったためだろう。加速された思考の中でシャドーと再び会話をする。


「外の状況は分からないのか?」

『私はスタンドアローンなんだよ、キミの記憶にあること意外は知りえない。しかし、一つ理解していることがある。例の小型爆弾は偽物、フェイクだということだ』


「何故そんなことが言える」

『私がキミと繋がってすぐセキュリティーが発動した、おそらくは私をウイルスと勘違いしたんだろうな。爆弾ならばそんなもの必要ない、考えられるのはそれがただの電子的部品であることだ』


「爆弾じゃない根拠は何だ?」

『アレに付いてた生産国が海外だったからだよ、爆弾なら輸出、輸入のさいに感知できるだろう、電子的な部品の塊なら感知されても問題ない』


「爆弾じゃないのだとしたら」

『頭に接続されたHMCは、脳の信号を読み取り仮想世界に取り込む、本来は感覚器官に送られるそれを直接VRに――しかし、HMCは遮断と同時に臓器機関など生存活動に必要な信号を送るために、それを認識するだけのある一定の電力が内蔵され供給している』


「……電力を変換したり、出力を抑える部分に何らかの影響を与えるためのパーツ」


『だろうな、それよって起こりうるのは、出力と制御が狂わされた結果、高周波誘導加熱されるということで、HMCに触れている部分が発熱し、脳がゆでられる』


「高周波誘導加熱の原理では、被加熱物が導電体の必要があるはずだが――」


『脳をと言ったのは間違いだ、HMCをコイルに利用することで、頭に接触した金属部分の自己発熱によって、頭を外部から焼くことも考えうることだ。高周波誘導加熱は高速で加熱することができ、その加熱効率も高い』


「単に高出力させた電力でも、脳内の水分を伝導体として脳を焼けないのか?」


『……さーな、キミが知りえないことは私も知りえない』

「知識不足か――」


『ところで、さっきも言ったが、私は〝ウイルス〟としてもうすぐあのパーツに弾かれてしまう』

「つまり平行処理ができなくなるってことか?」


『いや、今後の同期が無理になるだけだ、ゆえに私はできるだけあのパーツの構造を記録してメモリ内に持ち帰る。そのぐらいしかできないが、それによって、外部からキミの父上辺りが取り外す手順も得られるかもしれん』


「たった一回でか……使いどころは、間違ってないと思うが……」

『私を役立たず呼ばわりすると、キミも同じになるわけだが――』


「してないさ……しかし、この先チートに対してどう戦うか」

『何を言っている、キミは正義、過去に私のアシストなくとも戦っていたキミは相変わらず健在だ、私抜きでもやれるだろう』

「……愚問だったな」


『なに、置き土産ぐらいしていってもいいが、どうする?ジャスティスジャンキー』

「……貰っておいて損はしないしな、……しないだろ?」

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