第54話

 デスロードの大剣が振り下ろされて、デスリッチのサイスがなぎ払われる。


 ルーティンが読み辛い、そう思いながら戦っていた。2体いるからとか、ボスだからとかではなく、エネミーのアルゴリズムが通常のそれと違っている。


「独自のAIを搭載しているのか――」


 AIは自身の学習から選択手段を増やしていく、が、この2体の動きはかけ引きや戦略に富んでいる。つまり学習しているのではなく、すでに戦略思想があるということだ。


「プレイヤーか……」


 呼吸をしている気配がないことから、フルダイブしているのではなく、画面の前に座ってキボードとマウスで操作をしているだろう。


 それはそのプレイヤーが、ジョーカーと同じ意思を持っていて、GM側にいるということだ。


 前回、第3エリアのボス戦で出てきた、チート級モンスターを操作していた存在と近しい者。


 フルダイブ経験の不足、ゆえに現実で操作でプレイしている。


 だがそれも相当な経験があることから、おそらくプロだろう。


 アナログな人物、スキルの連発からみてチート状態。


 目の前の存在を〝悪〟だと認識した。こうなってしまってはもう止まれない、動きが速過ぎて情報の処理自体が徐々に遅延していく。次第に俺の脳での処理も限界を迎える。


 相手がチートを使う者であるなら、俺はこの機能を使うにやぶさかではない。


「スタンドアローン――ノーマル――アクティベーション!!」


 コールと共に脳内に言葉が繰り返される。


『StandAlone……Normal……Activation……Shadow……Import……Accept』


 VRに置いてプレイヤーの動きが速過ぎると、背景や諸々の処理速度が低下してしまう。速く動けば動くほど、高がゲームサーバーの処理能力では処理しきれなくなる。


 しかし、俺の脳とリンクしたそのアバターは、ゲームサーバーの処理ではなく、現実脳とHMC内の仮想脳との平行処理を基にしているため、アバター自身をシステム的に孤立化させて、HMCの処理を安定化することで、仮想現実で高速に動こうとも遅延なく体を動かせる。


 それでも、断続的にそれを続ければ処理しきれないデータの蓄積で、エラーが起こることもある。必要な時に必要な時間だけその状態にする、それによってデータのエラーを補正、修正、処理し、比較的長時間の処理の高速化が可能となる。


 つまりは、俺が速く動くことで周囲がラグくなり、モンスターは動きが遅く、外部からの命令を受けるのも遅れて、行動が絶対的に遅れることになるのだ。


「……この速さに、ついてこれるか――」


 アバターを構成するステータスは、すでに超人の域に達している。


 1000分の1秒とはいかずとも、体の反応は敵の攻撃の挙動から避けられるほどには速い。


 攻撃に関しても、秒間3回斬り付けることが可能だ。難点を挙げるなら、思考の加速が行き過ぎると、体が反応するまで数分かかる時もあること。戦いの最中の頭に響く声も。


『やージャスティス、どうやら難敵なようだ……と言ってもジャスティスの敵ではないかな』


「……シャドー」


 思考領域に会話するだけの余裕があるがゆえに、平行処理を行うとAIが話しかけてくる。


 その純粋な会話欲求は、知識欲のそれだが、戦闘中でもお構い無しだ。


「変な呼び方をするな、俺のことはヤトと呼べと言ってる」

『私の完璧なネーミングセンスを疑うなんて――シャドー、ショックだよ』


 戦闘中、シャドーの会話を遮る手段がないため、渋々それと会話をする。


 本当に渋々である。

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