第53話 23 超レイド級モンスター


 2053年1月11日


 AM02:21――First Continent――


 ――Section Area The Seven――


 戦闘開始から20分。

 超レイド級モンスター、デスロード・アンダーリッチ。


 騎士の胴、スカルタイプの脚部、腕は鎧を付けた腕が2本とスカルタイプの腕が2本。


 騎士の両手には大剣が、スカルタイプの両手には1本のサイス。


 平原をスカルタイプの足が駆ける。その巨体は、真下に立っても胴体に手は届かない。


 こちらの変則なアクロバティックな動きに、2本の大剣は付いて行けない。時折振られるサイスも掠る気配もない。


 HPバーは半分ほど削っている、と言っても〝12本中の1本の〟だが。


 剣士になりたての俺は、まだ剣の扱いに関して完璧とはいえない。


 それも、不慣れなアシストのないBCOだからだろう。本来、自身の感覚以外にゲームのシステム的サポートは、常に彼の傍にあった。だからこそ、彼は苦労を強いられている。


 だが、彼には幼い頃からその身、【脳】に積み重ねた、格闘術の経験が玄人に達する域である。無論、現実でも実戦として何度か使ったこともあるぐらいだ。


 システムのアシストなど必要はない。しかし、剣士になる過程でその間合いの違いはすぐには修正できない。


 リーチが素手に近い短剣の方が、むしろ戦い易いが、武器自体にステータスというものがあるが故に、片手長剣や片刃片手長剣、大剣などに頼らざるを得ない。


 デスロード・アンダーリッチは攻撃が素早く、連撃系が多いため、回避に時間を取られて、討伐には相当時間がかかる。


 こちらの攻撃は、その殆どがモンスターのウィークポイントにヒットしてはいるが、刃先が掠めたり、鍔元が当たったりと、ダメージにネガティブが加わってしまうのも、最大限のダメージを与えられない要因と言える。


「まだまだ、扱い慣れないな――」


 油断していると、デスロード・アンダーリッチのスキル攻撃が襲いかかる。


 仮想世界で体を切り裂かれることはない、剣の刃が自身をただ通り抜ける感覚だ。


 普通のプレイヤーなら、少し痛みを感じるだけのはずが、ただ刃が体を通る、それだけで恐怖を感じていた。なぜなら、俺には仮想かそうでないかは全く関係がない。


 仮想世界の大多数で、死に戻りは可能であるが、俺にとってはその手段は手段たり得ない。


 2歳から続くフルダイブ歴で、俺は一度として〝デス〟したことはない。


「もっと速く――」


 おそらくこの先も、ここで〝デスループ〟をすることはない。


 一度でもその身をエフェクトにしてしまったなら、俺は二度とHMCを、フルダイブ事態をしなくなってしまう。そう、俺にとってBCOでの〝死ねない〟感覚は特別な要素ではない。


 それが日常だった。


「もっと――」


 誰にも理解されない。

 誰とも共感したことのない。

 誰かもきっと懐いている。

 誰しも孤独に戦っている。


「相手の行動を予測する!斬る!避ける!どの動作でも大事なのは〝見る〟ことだ。目を背けない、そこに強大な敵、巨大な悪がどれだけいようとも――」


 デスロード・アンダーリッチのHPバーが、長剣アルシャナスのスキル、【リミットオーバー】によって2本目を削り切る。


 LIMIT OVERの文字が、剣の軌道に記されると吐き捨てた。


「極限の上方に――」


 すると、デスロード・アンダーリッチのHPバーが、5本ずつ分離するように上下に分かれて、それと同じく胴と脚部が分裂した。


 胴は大剣2本を持った足のない浮遊型のモンスター【デスロード】に、脚部はサイスを持った不恰好なスカルモンスター【デスリッチ】に。


「ボスが2体――ケージェイの奴……」


 おそらくは、ケージェイが送り出した攻略組みが壊滅した原因がこれだろう。ケージェイがコレをあえて隠していたことは、その場ですぐに察することができた。


 超レイド級と名を謳うだけはある。


 対複数の戦いは、今まで何度も経験してはいたが、レイド級ボス2体は経験のない相手だ。


 なにせ、どのタイトルにおいても、俺はレベル上げと、レアアイテム集めしかしてこなかった。最終目的が違法なプレイヤーとの戦闘であったため、ボスと称されるモンスターとの戦闘経験は数える程度だ。


 極論を言えば、コンバートが可能なら、どのタイトルでもモンスターと戦うことなく、チーターと戦ったり違法MODを削除したりできればそれでよかったのだ。


 このBCOにアカウントを作成した、そもそもの理由もそのためなのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る