第51話 22 YATO
ヘイビアのストックルームで、アイテムを取り出したり、ストレージ内を整理し直す。
俺はその場でレベルを上げて、溜めておいたEXP分で11は上昇した。
ステータスを振る手が震えている。恐怖か、武者震いか。
昔、親父に言われたことがある。
〝お前は仮想現実でできている〟
YATOというプレイヤーネームは、リアルの名前からきている。
神谷裕人、その名から苗字と名から一文字とってヤトと名づけた。苗字と名前の後ろの漢字二文字からなんてのは、少し古いMMOプレイヤーでは珍しくもない。
親父はHMCの開発主任で、母はその会社の役員。
幼少から身近にあったフルダイブ環境が、今の俺を構成している。
兄は母の教育を受け、俺は親父から教育を受けた。妹は――あまり兄らしいことをした記憶はない。母は兄を優秀な跡継ぎとして育て、俺には関心が無かった。
親父は、2歳の俺にHMCを付けさせて、仮想現実に度々ダイブさせた。
当時、HMCの使用規定に年齢制限は無かった。だが、俺が5歳になった頃に、5歳しては普通とは違った価値観を持っていると親父が理解すると、HMCに9歳以上の規定が付け加えられた。
大人しい、正義感の強い少年。いや、正義感の〝強すぎる〟少年。
小学校低学年の時、クラスでイジメをしていた同級生を半殺しにした。
殴る蹴るではない、肩の間接を外して、足首をヒビが入るくらいに踏みつけて、首を絞めて気絶させた。イジメを受けていた同級生も、イジメをしていた同級生とも、大して関係の深い相手ではなかった。
呼び出された親父は、ノラリクラリと事を治めようとして、母は相手側に訴えないよう金をチラつかせて圧力をかけた。
その時の母の顔は覚えていない、おそらく顔を合わせていなかったからだ。
その後も何度かそういうことがあって、次第に周囲とは距離をとられ、学校にいる間は勉強、家に帰ると仮想世界への日々。
初恋は親父の開発したAI搭載のNPCだった。
仮想現実で初めて本気で恋をして、それは〝開発中止〟で唐突に終わりを迎えた。
目の前でAIチップを叩き割った親父を、始めは恨んだ――だが、仕方ないことだと理解する自分がいた。時間の経過と共に心の傷は癒えたし、AIでよかったとまで思うようになった。
その後、小学高学年の頃、フルダイブVR世界で出会ったプレイヤーに対し、子どもながらの恋心が芽生え、そのアバターの中の女性が、違法なHMCの使用方法で日々、実の父に虐待を受けていることを聞く。
本人に住所を聞いて比較的近場だったため、彼女にどの時間帯にそれが行われているのかをあらかじめ聞いておいた俺は、直に家に乗り込んだ。
HMCを付けた裸の女性と、数人の裸の男たち。
後で聞いた話だが、女性は中学生で裸の男たちは、女性の父親が集めた売春相手だったそうだ。HMCで意識や感覚のない未成年にそういった行為をすることは、それまでも度々ニュースで目にしていた。それを見るたびに反吐が出る思いをしていた俺は、完全にキレてしまった。
全員の下腹部を潰して、フルダイブの仮想世界で覚えた格闘術を駆使し、全員を動けないほどに痛めつけた。それから警察が来るまで、彼女を抱き締めて俺はジッと待っていた。
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