第50話

 翌朝、その行動はいつも朝行う携帯端末を確認するように、自身のフレンド欄を確認するナナ。それは、知り合いが生きているかどうかの確認する行動でもある。


 【KJ】:IN:ORDER:始まりし街街中

 【YATO】※ブロック

 【ASURAN】:IN:Phantom Horizon:ヘイビア街中

 【JKU】:IN:Phantom Horizon:ヘイビア街中


 そこには、昨日までされていなかったブロックという表示が映し出されていた。


 それを見たナナは目を見開いた。ベッドから跳ね起きて、すぐにメッセージをアスランに飛ばし、1人で先行して第7エリアへと向かった。


 第7エリアを含む最初の大陸は、平原と草原と若干の森で構成されていて、南部から北東に行くにつれて森が深くなっている。逆に北西に進むと平原が絶えることなく広がり、現状視認できる第7エリアの先には三つ目の街が窺える。オーダーが第7エリアの攻略に躍起になるのもそれのせいでもある。


 最初に第7エリアを開放すれば、その街のギルド本部を一番最初に得られるため、オーダーも必死なのだ。それ自体は早期攻略組の報酬と思うが、現状では街の拠点としてギルド同士の対立を生む原因になってしまっている。


 平原の駆けるナナは、時折モンスターに阻まれながらも、エリアボスの戦闘フィールドへと急いだ。


 モンスターに阻まれる彼女は、不意に広がるフルダイブVR特有のエラー処理のコマンドが背景を駆ける。それは第7エリア全体に広がり、そこへ近づいたモンスターの動きがエラー処理に巻き込まれて一時停止する。その隙に、ナナはエリア内を走り続けた。


 エリアボスの戦闘フィールドに辿り着いたナナが目にした光景は、仮想世界でも異様だった。


 地面の大部分にエラーエフェクト広がり、モンスターのいないフィールドにいくつもの剣が消えずに地面に突き刺さたり落ちたりしている。


 仮想現実において、アイテムは所有者から離れて数十秒、もしくは装備変更された場合には即消失してしまう。消失と言っても、データとしてアイテムストレージ内に戻るのだ。


 しかし、ナナの目の前にはアイテムである剣が少なくとも数十は散らばっている。


 その剣の中心で、天を仰ぎ見る男が、風にボロボロのローブを靡かせて停止していた。


 ナナが戦闘フィールドへ入ろうとするが、彼女が足を踏み入れると、その体を何かが駆け抜けた。彼女の視界に映し出された映像は、おそらくは記憶的情報の断片。


 HMCから本来アバターへ送られる意識が、アバターを通して仮想空間にデータとして溢れているようだった。


 立ち止まるナナは、ポロポロと涙を流していた。俺の意識が刹那的に彼女の脳に流れ込んだからだ。


 やがて足元のエラーが俺に向かって集束していく。エラーが直るにつれ、散らばったアイテムも消えて、白いエフェクトと青いエフェクトが舞い上がり、緑のエフェクトと黄いエフェクトが降り注いだ。俺の足元までそれが届くと、そのアバターが膝を突く。


 前のめりに倒れそうになる体を、ナナは後ろから抱き止めた。そして、エラーから復旧したシステムがリザルトの表示を出す。ノイズ混じりのファンファーレと共に、戦闘フィールドがノンアクティブになる。


 駆けつけた幻影の地平線、そしてアスランが、ナナに抱かれた俺と、ボスが倒された証であるボスフィールド内の十字架を見る。その十字架には戦闘に参加したギルドの名前が記されるもので、ギルドに加入していない俺が攻略すれば、プレイヤー名で表示されるはずだった。


 だが、エラーがあった所為か、それは空白表示で誰が倒したとも判らない状態になって。


 しかし、本来オートでそれがなされるはずだった判定が、システムが遅延していたため遅く表示されることになる。


 その表記には、【Phantom Horizon】と記されていた。


 それを目にしたアスランは、ナナが抱え気を失っている俺を一瞥して言った。


「悪いが、……利用させてもらう――」

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